NIMSがペロブスカイト太陽電池で成果、60℃で1000時間の連続発電に成功太陽光

物質・材料研究機構(NIMS)は、太陽光に対して20%以上の発電効率を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電に耐えるペロブスカイト太陽電池の開発に成功。ペロブスカイトの弱点とされていた耐久性の改善に成功した。

» 2024年02月14日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 物質・材料研究機構(NIMS)は2024年2月5日、太陽光に対して20%以上の発電効率を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間以上の連続発電に耐えるペロブスカイト太陽電池を開発したと発表した。1cm角のペロブスカイト太陽電池で、ペロブスカイト太陽電池が研究室レベルから屋外設置の実用化レベルに大きく前進する成果としている。

 ペロブスカイト太陽電池は、軽量かつ柔軟に製造可能という特徴を持ち、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、あるいは車体などの曲面といった、さまざまな場所に設置できる次世代太陽電池として期待されている。また、塗布などによる連続生産が可能であること、レアメタルを必要としないなどのメリットも持つ。

ペロブスカイト太陽電池の断面とペロブスカイト結晶構造の模式図 出典:NIMS

 一方、課題とされているのが電池の耐久性だ。ペロブスカイトは水分との反応により劣化しやすく、太陽電池として高い光電変換効率と長期耐久性の両立が課題となっている。これまで25℃程度の室温環境下における疑似太陽光照射で1000時間連続発電が実現できていたが、太陽光が降り注ぐ屋外では、表面温度が50℃以上になるため、特に高温環境下での耐久性が必要になる。そこでNIMSでは、一定の高温環境下でも連続的に発電が行える高い耐久性を持つペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んだ。

 今回開発したペロブスカイト太陽電池は、光照射側から、TCO付ガラス、正孔輸送層(酸化ニッケル)、厚さ400nmの三次元(3D)構造であるFA0.84Cs0.12Rb0.04PbI3のペロブスカイト層、電子輸送層(フラーレン、C60)、緩衝層、銀電極の順で積層している。

 ペロブスカイトのAサイトに長鎖アルキル基やフェニル基などを有するアミンやジアミン化合物などの有機アミン類を導入することにより、半導体層(ペロブスカイト)と絶縁層(有機アミン類)が交互に重なり合った二次元(2D)ペロブスカイトが構築される。

 2Dペロブスカイトは疎水性の絶縁層が結晶内部に存在するため、外気中(水や酸素)で安定に存在することが知られているという。一方で2Dペロブスカイトの半導体層で発生した電子と正孔は絶縁層をまたいで移動することが難しいため、NIMSではナノメートルサイズの小さな結晶粒として、3Dペロブスカイト層と電子輸送層の界面に導入することにより、ペロブスカイト太陽電池の耐久性が向上するという仮説を立てた。

 それに基づき、ペロブスカイトと電子輸送層の界面に、一般的に知られている1,4-フェニレンジアミンの二よう化水素酸塩(PEDAI)を用いた2Dペロブスカイトと、ピペラジンの二よう化水素酸塩(PZDI)に置き換えた場合の比較を行った。その結果、ペロブスカイト表面との相互作用の強さ、2Dペロブスカイト結晶粒の形成しやすさ、2D構造(半導体層と絶縁層との厚み)、2D結晶粒のサイズなどに依存し、PZDIの2D結晶粒が界面に導入されるとより高い発電効率とより高い耐久性を示すことが分かったという。

 この成果を生かした太陽電池は、太陽光に対して20%以上の発電効率を維持しながら、60℃の高温雰囲気下で1000時間の連続発電に成功。これまでのペロブスカイト太陽電池は、50℃以上で1000時間の連続発電は実現できていなかった。

 ペロブスカイト太陽電池は研究が始まってから15年ほどしか経っておらず、太陽電池として長期信頼性を保証する手段が求めらる。そこでNIMSでは今後、ペロブスカイト太陽電池の高効率化や高耐久化とともに、加速試験の方法の確立を進める方針だ。

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