長期脱炭素電源オークション、既設原発の安全対策投資も対象にエネルギー管理(2/4 ページ)

» 2024年02月16日 10時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

長期脱炭素電源オークションにおける既設原子力の扱い

 長期脱炭素電源オークションにおいて、原子力の新設・リプレースは当初から本制度の対象となっているが、既設原発の安全対策投資の扱いについては、これまで整理されていなかった。

 既設原発は、東日本大震災後これまでに12基1,160万kWが再稼働済みであるが、20基以上・2,000万kW以上の既設原発が停止したままの状態にある。

 長期脱炭素電源オークションとは、投資回収の予見可能性を確保することにより、脱炭素電源への投資を通じて供給力を確保する制度であるため、既設原発の安全対策投資についても、オークションの対象とすること自体は必ずしも否定されるものではない。

 なお事務局資料では、「既設揚水の大規模改修案件を(本制度の)対象としている」と述べ、これを既設原発の安全対策投資の文脈の中で位置付けているが、正確には、既設揚水ではオーバーホール(水車及び発電機をすべて分解、点検、取替、修理)を行い、主要な設備(発電機(固定子)、主要変圧器、制御盤)の全てを更新する「リプレース」定義に該当するものが、長期脱炭素電源オークションの対象である。

 また本制度は、さまざまな脱炭素電源を対象とした電源種混合の競争入札であるため、コスト競争力のある案件のみが支援対象になることには留意が必要である。

既設原発安全対策投資の具体的な対象範囲

 長期脱炭素電源オークションとは、巨額の初期投資が必要な案件に対して、投資回収の予見性を高めることを目的とした制度である。既設揚水の「リプレース」案件では投資金額が100億円程度となり、電源の休廃止も含めた投資判断が必要とされるため、長期脱炭素電源オークションの対象としている。

 このため、既設原発の安全対策投資をオークション対象とするに際しては、「投資金額が一定程度巨額となり、休廃止を含めた投資判断が必要となる案件」に限定することが適切である。

 そこで、既設の原発の安全性を確保するために行う設備投資を大別すると、

  1. 原子炉等規制法に基づき定められる規制基準に対応するための設備投資
  2. 上記1の規制への充足に留まらず、自主的に安全性を向上させるために行っていく安全対策のための設備投資

の2タイプがあるが、「2.自主的安全性向上投資」は、休廃止も含めた投資判断が必要となるとは想定し難いため、この投資のみでオークション対象とすべき案件はないと考えられる。

 他方、1の規制基準対応設備投資にもさまざまなものがあり、東京電力福島第一原発事故を踏まえた最初の新規制基準(2013年7月施行)以降も、新たな知見により規制への反映が必要と判断された13件のバックフィットが実施されている。

表2.原子力バックフィット事例一覧 出典:原子力規制庁

 このうち、番号1の2013年7月に施行された「新規制基準」に対応するための案件は、投資金額が一定程度巨額であり、実際に一部の原発については廃炉に至った案件も存在するものである。よって、2013年7月施行「新規制基準」に対応するための投資案件については、第2回オークションの対象に追加することとする。

 なお、実際にはその他の安全対策投資を同時に行うことも想定されることから、これらの費用を応札価格に算入することも可能とする。本制度はあくまでオークションであるので、過度に応札価格に算入して応札価格が高くなれば不落札リスクが高まるため、無駄な投資を助長することにはならないと考えられる。

図2.既設原発安全対策投資のオークション対象 出典:制度検討作業部会

 長期脱炭素電源オークションは運転開始前の案件を対象としているため、再稼働済みの既設原発は本制度に参加できないが、今後、新たなバックフィットが行われ、本制度の対象に追加された場合には、その後のオークションに参加可能となる。

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