系統強化に向けた「海底直流送電線」、北海道-本州と九州-中国エリアで整備の方向にエネルギー管理(2/4 ページ)

» 2024年03月06日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

日本海側HVDC計画の費用便益評価

 費用便益評価においては、どの程度の期間(年数)の総費用と総便益を比較するかが重要となり、従来の費用便益評価においては、主要設備の法定耐用年数の期間を対象として評価を行ってきた。

図2.費用便益評価の期間 出典:広域系統整備委員会

 今回の東地域・日本海側のHVDC系統増強では、海底ケーブルが主要工事となり、その法定耐用年数は25年間である。他方、実際にはこれらの設備を法定耐用年数を超えて使用している実績もあり、「高経年化設備更新ガイドライン」では、標準期待年数は40〜50年程度と示されている。よって今回の試算では、実際に運用が期待できる期間として、法定耐用年数に加え、「40年間」でも費用便益を評価することとした。

 なお、費用便益評価において費用側に計上されるものは、工事の初期費用だけでなく、維持管理費や経年劣化に応じた一部設備の交換費用なども含まれるが、評価期間が長くなるほど、これらの総費用も大きくなる。

地域間連系線における便益評価の考え方

 費用便益評価において便益(Benefit)側に計上されるものとしては、燃料費・CO2対策コストの抑制、アデカシー便益、送電ロスの抑制などがある。

 地域間連系線を増強すると、広域的な電力取引が拡大し、再エネ電源が他エリアの化石燃料電源を差し替えることにより、燃料費・CO2対策コストが抑制される。燃料費・CO2対策コストは、全国メリットオーダーシミュレーションを行い、系統増強前後における電源の起動費を含めた総発電コスト(燃料費+CO2対策コスト)の差分を便益とする。

 燃料費は今後も大きな変動が予想されるため、便益評価では表2のような幅を持った前提条件としている。

表2.燃料費+CO2対策コストの範囲 出典:広域系統整備委員会

 また、アデカシーとは、電力システムにおける供給信頼度を評価する指標の1つであり、需要に対する適切な供給力(十分な電源予備力)および送電容量(送電余力)が確保されることと定義され、停電コストの抑制や、追加的に供給力を調達するコストの抑制などが便益となる。すでに容量市場において市場分断が発生していることも考慮し、今回の評価では、停電コストベースや調達コストベースの幅付きで評価することとした。

図3.アデカシー便益の考え方 出典:広域系統整備委員会

 送電ロスは、送変電設備の抵抗損失等によって発生するものである。地域間連系線等の系統増強を行う場合、系統の抵抗値が小さくなり、送電ロスが減少する一方、広域的な電力潮流が増加し、送電ロスが増加する効果も生じるため、全体の送電ロスの増減はケースバイケースである。東地域・日本海側HVDC計画の場合、東京向き潮流が増大し送電ロスが増加する試算結果となり、マイナスの便益となった。

 また、現在と将来の貨幣価値は異なるため、費用便益評価においては、「割引率」により将来の貨幣価値を現在価値に換算し、それらの合計額で比較する必要がある。

図4.割引率を用いた費用便益評価のイメージ 出典:広域系統整備委員会

 従来の系統整備計画やマスタープランでは、「割引率4%」を用いて費用便益評価をしてきた。国交省の公共事業評価手法研究委員会では、割引率4%が実勢を反映していないとして、割引率1%又は2%を設定してもよいとされたことを踏まえ、今回の地域間連系線費用便益評価においても、割引率1%・2%を前提とした試算も行うこととした。なお、これらの前提条件は、他の地域間連系線整備計画の費用便益評価にも同様に適用される。

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