系統強化に向けた「海底直流送電線」、北海道-本州と九州-中国エリアで整備の方向にエネルギー管理(4/4 ページ)

» 2024年03月06日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]
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九州〜中国間の関門連系線増強計画の概要

 広域連系系統マスタープランにおいて、九州〜中国間の関門連系線については、増強規模は280万kW程度、交流連系を基本としつつ、直流連系の選択肢も残すシナリオが提示されていた。

 その後の検討により、実現可能性や工事費で相対的に優位な、海底直流ケーブル(HVDC)方式で具体化を進め、2GW双極(案①)に加え、早期運転開始の観点から将来の2GW双極への拡張性を考慮した1GW単極増強(案②)についても、試算を行うこととした。

図6.関門連系線増強案の概要 出典:広域系統整備委員会

関門連系線HVDC増強の費用便益評価

 関門連系線HVDC増強の費用便益評価における考え方や前提条件は、北海道〜本州間の日本海側HVDC計画と同様であるため、ここでは割愛する。

 燃料費やアデカシー便益、割引率、工事費に幅をもって評価したところ、案①・②ともに費用便益B/Cが1を下回る(費用対効果が得られない)結果となった。

 案①2GW双極では、交流系統の安定度制約により増強容量を十分に活用できない(対策が別途必要となる)ため、工事費の安価な案②1GW単極の方が優位であることが確認された。

表5.関門連系線増強の費用便益評価 出典:広域系統整備委員会

 貨幣価値への換算が困難な定性的な便益には、大規模災害等における供給信頼度の向上効果や、既設関門連系線の電線張替工事に伴う長期1回線作業停止における送電制約軽減の効果がある。また、容量市場において、九州エリアでは需要規模に対する容量拠出金が他エリアよりも高額であるため、関門連系線増強により、これが抑制されることも考えられる。

 事務局試算によれば、九州エリアにおける2030年時点の再エネ出力制御率は、関門連系線増強が無い場合で7.6%、増強を行う場合で7.0%に低下することが報告された。すでに中国エリアや四国エリア、関西エリアにおいても再エネ出力制御が発生していることから、受電エリア側の需給バランス制約により、地域間連系線による域外送電効果は次第に小さくなると想定される。なお、関門連系線増強の概算工期は、6〜9年程度と見込まれている。

地域間連系線増強投資の判断

 以上のように、広域機関の広域系統整備委員会の試算では、定性的効果があることに留意しつつも、現時点、貨幣価値評価が可能な範囲での費用便益評価においては、無条件に増強投資を肯定できる結果ではないことが明らかとなった。

 しかしながら、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)では、再エネ導入拡大に向けて重要となる系統整備として、海底直流送電等の整備を加速していくこととしており、エネルギー需給構造の転換の実現や、産業・社会構造の変革など、政策的観点等を踏まえた電力系統の増強判断が求められている。

 これを踏まえ、資源エネルギー庁の電力・ガス基本政策小委員会では、将来的な再エネ導入拡大の見込みや、電力のレジリエンス強化の観点のほか、社会的ニーズを加味し、東地域・日本海側HVDC、関門連系線HVDC増強のいずれの案も、可能な限り早期に実施する結論とされた。

 今後の燃料価格やCO2対策費用の動向次第では、費用便益評価が変わる可能性もあるものの、国は、系統増強投資の妥当性について、丁寧な説明を行うことが求められる。

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