モデルプラントの資本費(建設費)のうち、原子力に特徴的な費用項目が「追加的安全対策費」である。
福島第一原子力事故後の新規制基準では、重大事故(シビアアクシデント)を防止する「設計基準」に加え、万が一重大事故やテロが発生した場合に対処するための「シビアアクシデント対策」を行うことが義務づけられている。
2024年6月時点で原子力規制委員会に新規制基準適合性審査を申請している16発電所27基の追加的安全対策費の平均値は、1基あたり約2,662億円となる見込みであることが報告されている。ただし、これはあくまで既設プラントの改修等において要する費用であり、新設のモデルプラントでは、あらかじめ設計・計画段階で反映することにより、追加的な費用とはならないものも含まれている。これを踏まえ、モデルプラントの建設費として追加計上すべき追加的安全対策費は1,707億円/基と算定された。なお、2021年検証では1,369億円/基が計上されていた。
原子力発電に関係する社会的費用の一つが、「事故リスク対応費用」である。これには、東京電力福島第一原子力事故を踏まえた、事故廃炉費用や賠償費用、除染・中間貯蔵費用などが含まれる。
なお、先述の追加的安全対策により発電コストは上昇するが、十分な追加的安全対策を行うことにより、事故リスク対応費用は低減するという関係性にある。
現時点、事故廃炉費用は8兆円、賠償費用は9.2兆円、除染費用(汚染廃棄物処理を含む)は約4.0兆円、中間貯蔵施設(建設・管理運営等)は約2.2兆円と見込まれており、これらの金額をモデルプラントと福島第一の1号機から3号機までの出力の比で補正したものをコスト検証に用いる。ただし、事故廃炉費用は非常に不確実性が高いことには留意が必要である。
このような巨額の事故損害費用をカバーする保険は存在しないことなどを踏まえ、これまで発電コスト検証WGでは、原子力事業者間での相互扶助の考え方に基づき、損害額を一定期間において負担する場合のコストを算定する「共済方式」を採用してきた。
ここで図6の“B)算定根拠(炉・年)”にどのような数値を用いるかが大きな論点となる。福島第一原子力事故後に行われた最初(2011年)の発電コスト検証では、事故前の50基(福島1〜4号機を除く)の40年間稼働を仮定した「50基×40年=2,000炉・年」で損害費用を負担することを想定して、あらかじめ積立を行うという考え方でコスト算定を行った。
その後の2015年検証では、新規制基準の適合性審査においても活用されている「確率論的リスク評価(PRA)」を参考として、「4,000炉・年」に変更を行い、2021年検証でもこれがそのまま使用されている。
なお電気事業連合会によると、再稼働済原子力12基のうち再稼働後のPRAを実施した10基について安全対策前後で比較すると、PRAにおける炉心損傷頻度は大幅に低下する(平均で約1/75)ことが報告されている。
現時点の再稼働済みプラントはすべてPWR(加圧水型原子炉)であり、BWR(沸騰水型原子炉)の再稼働後のPRAデータは無いため、十分に保守的な数値とする必要があることは前提としつつ、「4,000炉・年」の見直しの是非について、検討が行われている。
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