実態とのかい離が懸念される「広域予備率」、低下時の供給力追加策を検討へ第102回「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」(3/4 ページ)

» 2024年10月29日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

インバランス料金の見直しの方向性

 以上のとおり現行制度では、追加供給力対策による広域予備率の上昇と、一部の追加供給力が調整力kWh単価に反映されない、という2つの理由により、インバランス料金は電気の価値を適切に反映していない状態となっている。

 インバランス料金が本来の姿よりも安価であることは、BGが同時同量を果たすインセンティブを弱める原因となり、ひいては電力の安定供給を脅かすことが懸念される。このため広域機関事務局からは、広域予備率とインバランス料金の関係性の見直しに向けた2つの案(恒久対策)が示された。

 図4の左図は、追加供給力対策を考慮しない「対策前供給力」を指標として、「需給ひっ迫時補正インバランス料金」を適用する案である。また図4の右図は、追加供給力対策で発生した費用を「調整力の限界的なkWh価格」に反映することにより、インバランス料金を上昇させる案である。現時点、いずれの案を採用するかは未定であるが、広域予備率低下時のインバランス料金は、現状よりも相当程度上昇すると考えられる。

図4.広域予備率とインバランス料金の見直し案 出典:調整力及び需給バランス評価等委員会

 ただし、これらの見直しはインバランス料金制度の大きな変更となるため、広域機関は電力・ガス取引監視等委員会と連携しながら検討を行う予定としている。

今冬に実施可能な暫定対策

 上述のインバランス料金制度の変更は、さらなる詳細検討やシステム改修を要する対策であるため、早期の導入は困難である。このため広域機関では、今冬、直ちに実施可能な暫定対策として、供給力追加対策の発動基準や発動順位の見直しについて検討を行った。

 まず、「オーバーパワー運転等」は先述の表1のように、高コストかつ設備上の制約のある供給力対策であるため、その発動基準を「5%未満」に変更することとした。

 この変更により、発動基準:8%未満である対策は「電気の供給指示」だけとなるが、その対象は余力活用契約を締結していない安定電源に限られ、全体の効果量は小さいものとなる。よって、発動基準5%の対策のうち、逆に発動基準8%へ変更できる対策について検討を行った。

 「揚水発電機の運用切り替え」とは、現状BGが運用主体となっている揚水発電について、一時的にTSOが貯水池全体の水位を運用することにより、供給力を確保する対策である。図5の左図では、TSOはピンク色の部分を使用することが出来ないが、運用切り替え(右図)により、ピンク色部分を含む貯水池全体を、予備率一定となるように各時間にkWh配分することが可能となる。

図5.揚水発電機の運用切り替え 出典:調整力及び需給バランス評価等委員会

 上池の水を使用した後はポンプアップにより費用が発生するが、揚水発電の運用を切り替えたその時点で直ちに発電するわけではないため、運用切り替えだけでは費用は発生しない。よって、これは経済的な対策であるとして、揚水発電の運用切り替え基準を5%から8%に変更することとした。

 ただし、揚水発電の設備量や運用方法はエリアにより大きく異なるため、今回の変更の効果量もエリアによって異なることに留意が必要である。

 「余力活用電源の追加起動」対策では、図6の例の場合、電源Eを追加起動すると同時に電源Dの下げ調整を行うことにより、「上げ余力」を増やすこととなる。

図6.余力活用電源の追加起動 出典:調整力及び需給バランス評価等委員会

 通常、電源の起動費は高いため、これはコスト面で問題のある対策となるおそれもあるが、実際には、広域予備率低下時には多くの電源が起動済みであることが確認されている。よって、判断基準を5%から8%に変更したとしても、電源ラインアップに大きな違いは生じず、コスト面での問題は大きくないと考えられる。

 以上より、今冬に向けた暫定的な追加供給力対策として、発動基準の見直し(8%⇔5%)のほか、経済合理性や設備上の制約、実務的負担等を考慮した発動順位の見直しを整理したものが図7である。

 恒久的な対応策については、暫定対応時の運用状況も確認した上で、中長期的な課題として詳細な検討を行う予定としている。

図7.今冬暫定対応としての発動基準・順位の見直し 出典:広域機関を基に筆者作成

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