鉄鋼業界の脱炭素化へ 「グリーン鉄」の市場創造に向けた課題と展望第2回「GX推進のためのグリーン鉄研究会」(3/4 ページ)

» 2024年11月14日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

水素による直接還元技術の活用

 鉄鉱石にはシリカ、アルミナ、リン、硫黄等の不純物が含まれるが、シリカ以外の不純物を鉱山側で除去することは難しい。また原鉱の鉄分(Fe値)は生産地によって大きく異なる。現在の直接還元鉄技術に適した高品位の鉄鉱石は、世界の鉄鉱石生産量の約5%と希少であるため、低品位鉱石を活用可能な技術開発が進められている。

 また、従来のコークス(炭素)還元が「発熱反応」であるのに対して、水素還元は「吸熱反応」であるため、そのままでは反応が持続せず鉄が溶融しないという技術的課題がある。

 鉄鋼業界では、2030年までに水素還元製鉄の実証を行い、2050年までの本格導入を目指している。2050年時点の鉄鋼業全体での水素需要は、水素還元製鉄以外の用途も含めて2,000万トンに上ると推計されている。

図5.水素への転換における技術的課題 出典:日本製鉄

 なお先述の図3のように、水素直接還元炉で製造したペレットは、電炉で溶解し鉄鋼を生産するプロセスとなる。

 欧州各国では、高品位鉄鉱石を原料とする直接還元法+電炉による製鉄プロジェクトが複数計画されており、これらの多くは、操業開始時は天然ガスを還元ガスに用いて、水素インフラが整備されたタイミングで水素に転換する計画としている。

脱炭素製鉄の製造コスト

 現行方式の高炉や電炉と、「直接還元+電炉」方式や従来型高炉にCCSを組み合わせる場合のコストを比較したものが図6である。減価償却費等の固定費は含まず、圧延工程以降のコストも比較対象外である。

 研究会では金額そのものは公開されていないが、「直接還元+電炉」の場合、現行の高炉と比べ1.5倍程度にコストアップすると試算されている。この場合、多くの一般的需要家はグリーン鉄を選択せず、鉄鋼メーカーがグリーン鉄の製造に向けた大規模投資を行うことは困難であると考えられる。

図6.鉄1トン製造に係る原料・エネルギーコストの試算 出典:GX 推進グリーン鉄研究会

 カーボンプライシングにより、両者の実質価格を逆転させることは理論上は可能であるものの、非常に高額なカーボンプライシングを導入することは、カーボンリーケージが生じる可能性や鋼材全般の価格上昇による経済社会への影響も懸念される。

 よって現時点では、グリーン鉄のGX価値を評価する需要家が、これを積極的に購入する市場環境の整備が重要と考えられている。国や独立行政法人による環境配慮契約への反映や、民間企業等によるグリーン購入の促進が求められる。

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