現状、日本でスタートする価格差支援制度においては、採用される技術について日本タイドという条件はない。従って支援への申請を行う事業者は当然、運転実績があり、かつ価格がより安い技術を、海外企業も含めて検討するはずである。グローバル市場を見てみると、中国はコストを大幅に落とし、欧州内でもスタートアップ含む多くの企業が実績を積み上げ始めている。
日本で発明され、2000年代から日本が市場をリードしてきたリチウムイオン電池においても、2010年代後半から中国が特許数で猛追し、日本企業のシェアは大幅に低下。生産能力も2025年までに欧州と中国がそれぞれ日本の製造能力の20倍近くを持つ予定であり、このままでは水電解装置も同じ末路を辿る可能性がある。
2023年に日本政府が公表した「水素基本戦略」では、「国内水素市場の広がりには限界がある一方で、世界の水素市場は2050年までに年間2.5兆ドルの収益と3,000万人の雇用創出も予測される」「水素は、我が国が技術的な優位性を有する分野であることから、海外市場への展開を促し、水素産業の国際競争力強化にもつなげていく必要がある」と記載されている。
急激に世の中が動く現在、「産業競争力強化」を実現するためには、過去の延長線上ではなく、ドラスティックな発想の転換も許容した上での戦略の策定と具現化が必要である。そして何よりスピードが重要であり、そのためにはスモールスタートや、ノン・オーガニック・グロース、すなわちM&A等を通じて他社資源を獲得していくアプローチも手段となり得る。
そこで次回の第2回では、半導体や蓄電池等における過去の事例も踏まえながら、日本企業が水素関連市場で勝つために必要な具体的なアプローチについて考察したい。
低炭素水素の普及を促す新施策、「価格差に着目した支援」の詳細設計
「GX2040ビジョン」の策定に向けた論点――国力を左右するエネルギーの将来戦略
ガスの脱炭素化で期待の「合成メタン」、その基準案とメタネーション技術の開発動向Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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