次世代燃料は、既存の石油製品と物理化学的な性質・性状がほぼ同等であるため、膨大な既設インフラやユーザー設備機器がほぼそのまま使用できることが大きなメリットである。ただし、既存石油製品との物理化学的な性質・性状の違いにより、単純な代替や石油製品への大量混合が難しい場合があるため、次世代燃料の環境価値認証・移転制度の検討にあたっては、これを考慮する必要がある。
まず表1の「環境価値一体型」の①〜③では、環境価値を分離せず、実物燃料と一体的に管理するため環境価値を保全しやすいというメリットがあるが、次世代燃料を需要地まで物理的に届ける必要があるため、サプライチェーン整備費用が高いというデメリットがある。また次世代燃料の性状によっては、既存設備に大量に投入できないといった制約も生じ得る。
他方、表1の「環境価値分離型」の④〜⑥では、サプライチェーンの末端まで物理的な混合比率を把握する必要はなく、混合比率を超えた環境価値(例えば100%)を主張することも可能となる一方、環境価値の二重計上防止を目的とした「レジストリ」(登録簿)の整備が必要となる。
また、次世代燃料の導入初期はその供給量が少ないと見込まれる中で、燃料そのものを物理的に遠隔の需要地まで届けることは効率的でないが、ブックアンドクレーム方式であれば、環境価値の取引・移転のみにより、ユーザー側での次世代燃料率100%の実現が可能となる。
次世代燃料の導入初期では、主に「ファーストムーバー」と呼ばれる先進的ユーザーが市場を牽引すると想定される。ただし、ファーストムーバーの多くはGHGプロトコル等の国際イニシアティブや規制への適合性を意識していると考えられる。
例えばGHGプロトコル等(表2内の*)では、コントロールブレンディング以上の環境価値一体型のバイオ燃料は報告可能であるが、合成燃料については炭素会計の考え方が整理されておらず、現時点では報告不可である。また、SAFを想定した国際民間航空機関(ICAO)のCORSIA(表2の**)では、燃料供給時点まではマスバランス、燃料供給後はブックアンドクレームが認められている。
このように、現時点では環境価値を完全に分離するブックアンドクレーム方式の利用は、ごく限定的である。
環境価値TFでは、まずは国内において温対法に基づく算定報告公表制度(SHK制度)や、GX-ETSの義務履行手段の一つとして利用可能な環境を整備し、将来的に国際イニシアティブでも使用可能となるよう、提言していくことを想定している。
次世代燃料の環境価値を証書として取引することにより、次世代燃料のユーザー(例えばトラック運送業者)は、その燃料使用に由来するScope1排出量をゼロと扱うことが可能となる。また、人・モノの輸送サービスを受ける荷主等は、そのような輸送業者を利用することにより、当該輸送に係る自社のScope3排出量をゼロと扱うことが可能となる。
当面は高コストな次世代燃料の利用を促すためには、最終的に輸送コストを負担する荷主側がScope3排出量の削減を評価し、価格転嫁を許容することが重要であるため、環境価値認証・移転制度の設計においても、これを考慮する必要がある。
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