原発事故の暗雲が“空の道”を遮断する。欧州系キャリアでは成田から撤退の動きも秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(2/2 ページ)

» 2011年03月18日 15時56分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]
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ルフトハンザは成田便の運休を決定

 日本政府は福島第一原発の半径30キロ以内の人に対して屋内退避を指示しているが、米国の原子力規制委員会(NRC)は独自の調査・分析の結果、半径80キロより外への避難を自国民に勧告した。日本と海外では、状況のとらえ方にかなりの温度差があるようだ。エアライン各社は、多くが現状を「より重い」と判断している。

 例えばドイツのルフトハンザは成田からの便の運休を決定。成田からフランクフルトへの便は中部発着に、ミュンヘンへの便は関西発着に変更した。2010年夏より成田/フランクフルト線に導入したエアバスA380(関連記事)はA340-600に機材チェンジされ、総2階建ての豪華旅客機への搭乗を楽しみにしていた旅行者たちを落胆させている。またアリタリア-イタリア航空も、ローマおよびミラノと成田を結ぶ便の関西発着への変更を決定した。

 成田線の運航は続けるものの、直行便を東南アジアの都市経由のルートに変更するエアラインも出てきている。ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)はロンドンへの直行便を3月18日の出発便から往復とも香港経由にすると発表。スカンジナビア航空はコペンハーゲンへの直行便を北京経由に、エールフランス航空はパリ行き直行便をソウル経由に、また成田線の運航を再開したオーストリア航空やスイスインターナショナルエアラインズもウィーンとチューリッヒへの直行便をそれぞれソウルと香港経由に変更した。成田線を運休にしたルフトハンザも、中部線、関西線ともにソウル経由で運航する。

飛行機と空と旅 スカンジナビア航空はコペンハーゲンへの直行便を北京経由に変更

クルーのステイ地を日本から東南アジアへ

 直行便を東南アジアの都市経由にすることで、何が変わるのか? それについて、ある関係者は次のように話す。

「結局これも、日本線には乗りたくないというクルーたちに配慮した措置ですよ。成田線の乗務では、到着してから東京で1泊か2泊ステイして、翌日か翌々日の便で帰っていくという勤務パターンが多い。しかし、いまの日本には留まりたくないという声がクルーたちから上がり始めた。そこで各社とも、東京に到着後はそのまま折り返し便でソウルや香港、北京に飛び、そこでステイする体制に変えたんです。乗務員の交代や燃料給油も日本以外で行うと聞いて、クルーたちも納得したようですよ」

 直行便から経由便への変更はいずれも1週間程度の暫定措置で、各社とも「その後のスケジュールについては追って発表する」としている。しかし原発事故処理の今後の推移によっては、ずっと続いていく可能性もあるのではないか。状況いかんでは経由便も断念し、日本路線の完全撤退ということにもなりかねない。私は現在、この文章を被災地取材から戻るクルマの中で書いている。ラジオから流れてくるのは、陸上自衛隊のヘリによる福島第一原発3号機への上空からの放水が実施され、警視庁機動隊による地上からの放水準備も進んでいるというニュースだ。日本と海外を結ぶ空路が断たれ、私たちが世界から孤立するのを防ぐためにも、いまはただ原発トラブルの沈静化をじっと見守るしかない。

飛行機と空と旅 原発事故処理の今後の推移によっては各社の成田(写真)からの完全撤退も……

著者プロフィール:秋本俊二

著者近影 著者近影(米国シアトル・ボーイング社にて)

 作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。

 著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。

 Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。


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