圧倒的なツイッターフォロワー数を誇る、孫正義。プレゼンとツイッター――その2つに共通している点について探る。
プレゼンの達人と呼ばれ、奇跡とも呼べる企業提携を世界中で実現してきた孫正義氏。実は、そのプレゼン戦略は非常にシンプルで明確だった。
など、誰もがすぐに実践できるものばかり。不可能を可能にする孫正義の伝える技術、その極意を凝縮して紹介する。
この記事は2011年12月1日に発売された『孫正義 奇跡のプレゼン』(三木雄信著、ソフトバンククリエイティブ刊)から抜粋、再編集したものです。
「結論から言え、結論から」
孫正義のプレゼンテーションは、スライドごとの「メッセージ」が非常にシンプルかつ力強い。スライドを一目見れば「読む」ための努力をするまでもなく一瞬で理解することができる。文字数で言えば20文字程度のことが多い。
孫正義のコミュニケーションがコンパクトなことは、孫正義がアメリカ発祥のミニブログ、ツイッターの優れた使い手であることとも関係しているだろう。
ツイッターは、140文字以内の「つぶやき」を書き込むアメリカ発祥のサービスだ。ブログよりも手軽に利用することができる点が評価されて急速に普及してきた。2011年現在、全世界で利用者は、およそ1億4000万人、日本での利用者も約1700万人を超えたといわれている。1日の「つぶやき」数は2億を超えたという。このツイッターでの「つぶやき」を読む人のことをフォロワーと呼ぶが、孫正義のフォロワー数は、約200万5500人(2014年2月現在)と日本国内では圧倒的ナンバーワンとなっている。
ツイッターでは、140文字以内に自分のメッセージをインパクトのある形にまとめなければならない。孫正義のツイッター上でのメッセージは、非常によく言葉が練られた短文になっている。例えば、2011年8月7日に「私は、出来るだけ早く『ゼロを目指すミニマム原発』論者です。先日のトコトン議論を観て頂いた方々には理解頂けると思います」とつぶやいている。
「ゼロを目指すミニマム原発」論者という言葉は孫正義の原子力発電についての姿勢を非常に端的に表している。「ゼロを目指すミニマム原発」とは、前述した2011年4月20日の自然エネルギー財団設立表明のプレゼンテーションに挿入した戦略的なスライドを言葉にしたものだ。
このスライドで、原子力発電と太陽光発電のコストは折れ線グラフで示され、それぞれの傾向は一目で理解することができる。また、2本の折れ線は2010年あたりで交差し、その差は年々開いていく傾向にある。孫正義は「脱原発」で、「今すぐ原子力発電所を全廃しろ!」と言っているわけではない。「原子力発電をしないと経済が破綻する!」と言うような原子力推進論者でもない。孫正義は、原子力発電以外の自然エネルギーや節電、送電網の全国一体化などのさまざまな選択肢を追求した上で、経済の維持のために必要であれば、新しく安全性の高い原子力発電所から順に動かしていくのは仕方がないとしている。しかし、長期的には自然エネルギー発電が安価になっていくことが予想されるため、「原子力発電ゼロ」を目指すとしているのだ。
こうした自らの立場を「ゼロを目指すミニマム原発」という短い言葉に集約しているのである。この言葉には深い洞察が込められている。言葉の中の「ゼロ」は、将来のいつかの時点で到達するべき最終的なゴールを示すと同時に、「目指す」という言葉に折れ線グラフの前提となっている過去から未来への時系列的概念が含まれている。また「ミニマム」には、可能であれば原子力エネルギーより自然エネルギーを優先するという対立概念と、経済を維持するためにという前提条件を示唆している。「ゼロを目指すミニマム原発」には、さまざまなロジックが集約されているのだ。
このように、孫正義は「メッセージ」を短く端的にまとめる達人だといえる。もちろん「メッセージ」はむやみに短くすればいいというものではない。プレゼンテーションで最も強い「メッセージ」を抽出することが鍵になる。一貫して強く、ぶれないメッセージを発信し続ける人間というものは、誰しも気になるものだ。これが孫正義のツイッターのフォロワー数が日本で圧倒的にナンバーワンである理由だろう。だからこそツイッターの達人は、プレゼンテーションの達人でもあるのだ。
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