沖縄・宜野座村にみるデータセンターと災害対策郊外型データセンターの最前線(2/2 ページ)

» 2011年12月15日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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東日本大震災で浮き彫りになった情報通信の課題

 見学会では有識者による災害普及や事業継続をテーマにした講演も行われた。

総務省の稲垣英明氏

 まず登壇した総務省総合通信基盤局電気通信事業部データ通信課 課長補佐の稲垣英明氏は、現在総務省で進められている「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」での内容を紹介。検討会には総務省や通信事業者、インターネットサービスプロバイダー、学術研究者らが参加し、主に災害時おける通信インフラの対応や災害に強い基盤の確立、インターネットの活用方法などが議論されている。稲垣氏は8月2日に公表した中間報告を中心に、インターネットの活用方法を取り上げた。

 東日本大震災では発生直後から音声通信がつながりにくい状況となったが、インターネット通信は比較的つながりやすく、FacebookやTwitterなどで安否確認を行うといったシーンが注目を集めた。一方、行政における情報提供では多くの課題が表面化したという。

 「例えば、ポータルサイトに提供される情報が自治体によってPDFであったり紙であったりバラバラで、担当者が煩雑な作業に追われた。また、本人の同意なしに個人情報を公開できないと条例などで定めている自治体が多く、安否確認作業に手間取るケースもあった」(稲垣氏)

 またクラウドサービスの連携を通じて、被災した情報システムの代替や迅速な復旧、多様な情報を組み合わせることによる付加価値の創出なども注目される。自治体の場合では総務省が推進する「自治体クラウド」への取り組みも重要になってくる。

 中間報告ではクラウド連携に必要な事業者間での取り決め事項や、動的・自律的な連携を可能にする技術の研究開発にも触れられており、最終報告が年内に取りまとめられる予定とのことである。

いつもしている「モノ・コト」が大事

日本インターネットプロバイダー協会の立石聡明氏

 総務省の検討会にも参加する日本インターネットプロバイダー協会 副会長兼専務理事の立石聡明氏は、災害にどう備えるかをテーマに講演した。同氏は震災後に宮城県石巻市と女川町を訪れ、被災地での厳しい通信事情を目の当たりにしたという。

 今回の震災で最大の被害をもたらしたのは津波であり、通信基盤に限っても設備が浸水したり、津波で運ばれた建物や自動車、船に設備が倒壊したりなどの被害が多発した。津波の直接的な被害を受けなくとも、数多くの施設が停電によって電源を喪失し、予備電源を使い果たした後に稼働できなくなった。避難所では電話回線の確保を優先するところが多く、インターネットによる情報の発信・収集が十分に行われないというシーンも目立ったとしている。

 上述のように、震災ではインターネットによる情報の発信・収集が注目されたが、立石氏はその理由が東京での被害が比較的小さかったためだと指摘した。「インターネットの中枢が東京に集中している。仮に東京が壊滅的すれば、全国でインターネットが使えなくなるだろう」と警鐘を鳴らしている。

 このような実情を踏まえ同氏は、平時から利用している「モノ・コト」を緊急時にもすぐ活用できるようにしておくことが重要だと述べた。

 例えば、FacebookやTwitterによる情報発信では平時からアカウントを準備して、適切な発信方法に慣れておく、Webサイトでの情報発信では動画など負荷の大きなデータを一時的に外して大量のアクセスを処理できる運用にしておくなどが求められる。また震災直後は、アクセス集中で閲覧できない状態のWebサイトのミラーサイトをボランティアが立ち上げるといった取り組みも目立った。Webサイトの運営者によっては、第三者が運営者の許諾を得ずにミラーサイトを立ち上げることに難色を示すケースがあるが、立石氏はこの点も含め緊急時に円滑な情報発信ができる準備をしておくことも必要だとアドバイスしている。

 またこうした運用面以外にも、情報通信基盤を確保する上ではDCサービスもポイントになるという。宜野座村IDCのように、DCは免震や耐震に優れ、停電に一定期間耐えることができる非常用発電設備も準備されている。こうした準備を自前で備えることはコスト面で大きな負担が伴うが、DCサービスを活用すればコストを抑えることができる。

 立石氏は、「東日本大震災で“想定外”ということが許されなくなった」とも語り、災害対策や事業継続計画に基づく取り組みを早急に進めるべきと提起した。


 東日本大震災の発生からから9カ月あまりが経過し、この間に災害対策や事業継続計画の抜本的な見直しに迫られている企業や組織が少なくないとされる。情報通信網の都市部への一極集中や電力の安定供給などの構造的な課題も浮上する中で、盤石な情報通信基盤の実現には、郊外型DCの活用を始めとした新たな視点を積極的に取り入れることが求められているといえそうだ。

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