「ビジネスとITが出合う場所」のために何が必要か?BPTrends(15)(2/2 ページ)

» 2007年09月28日 12時00分 公開
[著:デレク・マイヤー, 訳:吉川昌澄,ウルシステムズ]
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共通言語となる「表記法」と「ボキャブラリ」を

 表記法に関する話題も重要だ。あまりにも多くのITの人々が、ビジネスマネージャがフロー図を読めるものだと考え過ぎている。ワークフローの異なる表記方法が何十もある中で、いくつかの表記法は比較的単純であり、また、いくつかは極端にあいまいだ。ビジネスサイドの人々がプロセスのフローを表現する際に、グラフィカル表記よりもむしろしばしばアウトラインを用いていることを考えれば、これらのアプローチはうまくいくはずだ。もちろん、フローがビジネスサイドとITサイドのニーズを配慮して作成されることが前提ではあるが。

 例えば、Air Products社は、ビジネスプロセスの世界での標準化に中心的に取り組んできた。当初、彼らはITグループが利用したソフトウェア「ARIS」がビジネスマネージャには不適切であることに気が付いた。そこで、彼らは、ビジネスマネージャが単純な表記法でMicrosoft Visioを利用するやり方に落ち着いた。この方法では、プロセスを実装に移す際には、VisioからARISへ移行する“翻訳機”が必要となるが、それはそれでよしということにしたのだ。彼らが気付いたことのもう1つは、ほとんどのビジネスマネージャが標準的なワークフローの表記法に不慣れであるということだ。そこで、彼らはすべてのマネージャに対して半日のコースを設けて、主にマネージャが単純なワークフロー図を読めるように教育したのだ。現在、Air Products社は、彼らのすべてのオペレーションをワークフロー図で記述し、すべての図をオンラインに登録している。従って、あるマネージャが新しい仕事にアサインされた際、彼(女)は即座に新しい仕事を記述している図をダウンロードし、何が求められているかを理解することができる。そのほか、図の活用を宣言している企業についても、Air Products社と同様の取り組みを行っている。

 より大きなポイントは、「ビジネスプロセス」をビジネスの問題を議論するために用いる場合には、ビジネスサイドの人々とITサイドの人々が協調して記述方法とともに新しい共通言語のボキャブラリを確立しなければならないということだ。ビジネスとITが「プロセス」といったときに同じことを意味していると考えるのは危険だ。また、一方に対して意味のある表現が、他方に対してもうまくいくと考えるのも危険だ。共通言語の開発は時間と労力を要する作業だ。それぞれのサイドの人々が相手サイドの人々と対話しようとするモチベーションを持ち、決まりごとを学ぶ努力をしなければならない。同様に、共通言語は、両者にとって十分に興味深く、またニーズを表現できるように、十分にリッチでなければならない。

 例えば、ある組織と下位組織の責任についてワークフロー図に表現するにはどうしたらよいか、考えてみてほしい。また、プロセスのどの尺度により成功がもたらされるかを、どのように表現するだろうか? さらに、プロセスの下流の組織の結果に関する情報がその上流の組織にフィードバックされれば、上流組織のアウトプットが成功裏に利用されたことを知らせることができるという事実を表現するにはどうするだろう? これらは、いずれもビジネスサイドの関心事であり、ITソフトウェアの開発者にはあまり関心のないことだ。ほとんどのソフトウェア開発の表記法は、これらの属性を識別する表現能力がない。1980年にビジネスサイドの人々のために開発されたラムラー(Geary A. Rummler)とブレーシュ(Alan P. Brache)の表記法は、これらの関心事を記述する方法を与えている。最新のワークフロー表記法のほとんどはラムラー・ブレーシュのスイムレーンの表記法を取り込み、マネジメントの責任を表現することができる。しかし、ほとんどのワークフロー表記法は、尺度や従業員のフィードバック記録のフローを表すラムラー・ブレーシュ表記法を取り込んでいない。

移行期を乗り越えて

 ビジネスサイドの多くの人々は、マネジメントに対するプロセスベースのアプローチを受け入れることに抵抗を感じるものだ。ほとんどの人々が機能的または部門的なアプローチに固執しており、より大きなスケールのビジネスプロセスを概観するプロセスマネージャの設置に抵抗する。あまりにもよくあるケースは、シニアマネージャが組織的な尺度やインセンティブに注力して、ビジネスプロセスにおける大きな改善を妨げていることだ。多くのビジネスマネージャはプロセスにリップサービスを払う一方で、むしろ、組織作りやビジネスの成功の評価に関して、伝統的な方法を好んでいるのだ。

 もちろん、ビジネスとITが伝統的なやり方を乗り越えて取り組んでいる企業がある。一部のビジネスマネージャたちは、IT開発者と同様に、ITの関心事に非常に敏感であり、ワークフロー図を読むことができる。また、多くのITマネージャたちは、ビジネスマネージャと同様に、ビジネスの成果を達成することに注力し、スキルを身に付けている。実は、われわれは移行期間の途上にいるのだ。ほとんどの大規模組織において少しずつではあるが、われわれは、よりプロセス重視型の組織を作る方向に動いているのだ。多くの企業では、よりプロセス重視型の組織でなければならないと広い範囲で合意している。しかし、現在、これらの組織では、単に、プロセス重視型組織が成功するには何が必要かを定め、ビジネスマネージャとITサイドに対してどのような振る舞いの変化が求められるかを定めているにすぎない。

 ビジネスプロセスは、ビジネスとITのマネージャがともに集う場所を提供できるものだ。しかし、それが実りある集いとなるためには、それぞれがそれに備えて準備しなければならない。それぞれの人々は変化して、少し新しいことを学び、その集いでは誰もが共通言語を話すように努力しなければならない。

 では、また。

 ポール・ハーモン

Original Text

Harmon, Paul. "Who Brings What to the Party?" Email Advisor, Business Process Trends, Volume 5, Number 8, April 24, 2007.


著者紹介

ポール・ハーモン(Paul Harmon)

ビジネスプロセスに関する情報提供を行うBusiness Process Trends(BPTrends)の創立者/エグゼクティブエディター。Enterprise Alignmentの創立者/チーフコンサルタント。


訳者紹介

吉川 昌澄(よしかわ まさずみ)

ウルシステムズ株式会社 ディレクター。


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