メディア

予想以上に成長する後輩と、大御所との出会い：目指せ！シスアドの達人－第2部飛躍編（13）（3/3 ページ）

» 2007年11月30日 12時00分公開

[石黒由紀, 山中吉明，＠IT]

人の心の壁で行き詰まるのは……

　その後、海釣りを満喫した坂口ら5名は、マダイやヒラマサなど釣り上げた大量の獲物を抱えて、海岸沿いにある民宿「かもめや」に到着した。かもめやでの夕食は、釣った魚を料理したもので、刺身や天ぷら、煮付けととても豪華な磯料理だった。5人は会話することも忘れて海の幸に舌鼓を打ち、地酒に酔った。

　食事の後、「これから密談するから、ちょっと遠慮してくれるか？」と酔って真っ赤な顔の西田にいわれ、地酒とコップを手にした西田と布袋四郎がよたよたと部屋に入っていく後ろ姿を見届けた後、坂口は1人隣室の広縁にある椅子に腰掛け、月夜の海を眺めていた。

坂口　「（今日はとても良い話を聞けた。泰博さんはやはりすごい人だ。あの徹底した合理主義と勇猛果敢なビジネススタイルには頭が下がる。園村さんとの息もぴったりだ。あの2人がホテイドリンクの物流を支えているんだなぁ）」

　釣りをしながら布袋泰博の豪快な武勇伝を聞いた坂口は、興奮気味に明日からの自分の姿に、布袋泰博の姿をだぶらせたりしていた。

　かもめやは海水浴場の中央に位置し、夏の季節はたくさんの海水浴客でにぎわっていたであろう海岸線は、今夜は波も穏やかでとても静かな海である。満月から少し欠け始めた月が、時折波に揺れながら、海面に美しい輪郭を映し出している。

　海岸線の向こうから、月明かりに浮かび上がる影が2つ近づいてきた。

布袋泰博と園村純が散歩でもしているのであろう、ゆっくりした足取りでかもめやに戻ってきた。2階の窓際から外を眺めていた坂口の方をちらりと見上げた布袋は、一言二言、園村に話しかけた後、1人波打ち際に歩み出て海の向こうの水平線を見遣っている。

　そして、園村だけが宿の方に戻ってきた。ガチャリと部屋の入り口でドアノブを回す音が聞こえ、園村が1階の自販機で買ったサンドラフトビールを2本持って部屋に入ってきた。坂口は笑顔で園村を迎え、2人は広縁の椅子に腰掛け乾杯した。

　園村は、ずっと海を眺めたまま動かない布袋泰博に目をやった。

園村　「社長は、ああやってたまに1人で何か新しいことを考えているんです。邪魔だから戻ってろといわれました。ははは」

坂口　「今日は布袋社長からとても良い話を聞かせていただきました」

園村　「坂口さん、お見受けしたところ、あなたは大変な仕事人間ですな。いや、悪い意味じゃないですよ。それはとても素晴らしいことです。ただ、仕事は基本的に人と人との共同作業の上に成り立っていますから、仕事の論理と人心とのバランスを良くとらないと、不本意な結果をもたらすことがあります。人の心というものは、仕事中心のアプローチだけでは動かないことが多いですよねぇ、坂口さん……。人の心が壁になって行き詰まったとき、坂口さんはどのように難局を乗り越えていきますか？」

坂口　「心の壁ですか……」

　坂口の脳裏に松下と帳票の電子化でもめたときのことや、岸谷ら工場のメンバーから協力を得られなかったときのことが浮かんだ。

園村　「人の心の壁は、時として修羅場を作り出します。そんなとき、リーダーは誰よりも人間的でなければなりません。そして、業務改善を実現するためには、人の心を心から理解しようとしなければなりません。坂口さんはまだお若い。私のような年寄りのお説教も多少吸収できる部分があるでしょう……。ははは」

　園村の淡々とした語り口に引き込まれ、坂口はだまってうなずいた。

園村　「坂口さん、どうですか、私のお説教話を少し聞いていただけますか？あまり面白い話ではありませんがね……」

坂口　「ええ、もちろんです。お願いします」

◆次回予告◆

　次回、人の心が壁で行き詰まっている坂口に対し、園村は過去の体験談を話す。その話に坂口は大いに心動かされるのだった……。