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» 2017年01月23日 16時24分 UPDATE

見えなかったものが見えてくる――東芝の有機ELテレビでHDR版「シドニアの騎士」を堪能

HDR化のメリットは、拡張されたダイナミックレンジの中で表現力の幅が広がること。Netflixと東芝が催したHDR版「シドニアの騎士」試聴会で、それを再確認することができた。そして「ブラム!」の情報も。

[芹澤隆徳,ITmedia]

 テレビのHDR(ハイダイナミックレンジ)化のメリットは、拡張されたダイナミックレンジの中で表現力の幅が広がること。画面の明るい部分や暗い部分も単なる黒や白ではなく、細かい階調やディティールを与えることができる。それは映像に奥行きを与え、見る人を物語に引き込むための強力な武器になるようだ。Netflixが催したHDR版「シドニアの騎士」試聴会で、それを再確認することができた。

HDR版「シドニアの騎士」試聴会では、HDRとSDRの横並び比較が行われた

 今回の試聴会は、3月に初の有機ELテレビ「X910」シリーズを投入する東芝映像ソリューションと共同で実施したもの。自発光タイプの有機ELテレビはコントラスト性能に優れ、宇宙を舞台にした「シドニアの騎士」とは相性が良いが、さらにHDR化により、「宇宙に輝く星、ロボット(衛人)のスラスターから出るチリも見逃さない」(Netflixのグレッグ・ピーターズ社長)という。

「『シドニアの騎士』はHDRに格好のコンテンツだ」というNetflixのグレッグ・ピーターズ社長

 また東芝映像ソリューションの池田俊宏常務は、X910シリーズについて「テーマは“没入感へのいざない”」と紹介した後、バロック期の著名な画家を引き合いに出してHDRの効果を説明した。「HDRを端的にいえば、人の目に見えるモノをディスプレイに再現しようとするもの。ヨハネス・フェルメールが駆使した“光の表現”がいかに見る人を魅了し、没入させたか。その体験を是非テレビに持ち込みたい」(池田氏)。なお、東芝映像ソリューションは、X910シリーズの購入者を対象に6カ月間のNetflixメンバーシップをプレゼントするキャンペーンを実施することも明らかにした。

東芝映像ソリューションの池田俊宏常務

SDRでは“見えなかった”もの

 会場ではX910を2台並べ、一方はSDR表示として横並び比較するデモンストレーションを行った。まず印象的なのは“宇宙空間の黒”だが、これはHDR化というより有機ELテレビならではの表現。一方、画面内を飛び交う光はSDRに比べて明らかに明るく、色も濃い。10bitから12bitに拡張され、色域もRec.709からDCI P3に広がったことで、近似色にクリッピングされていた色が正確に表示できるようになった。そして最も注目したいのは、ピーク輝度で800nitsという明るさと、その光の“中”。SDRでは見えないものが見えていた。

エレベーターのシーン。一見、強烈な夕日で窓が白く飛んでいるように見えるが……

 分かりやすいのはエレベーターのシーンだろう。一見、強烈な夕日で窓が白く飛んでいるように見えるが、HDRの画面では外のビルがしっかり描き込まれていることがうっすらと分かる。それでいてSDRよりも明るい。

HDRの画面をアップにしたところ。実は外の風景もしっかり描かれている

 また衛人のコックピットのシーンでは、上からの明かりでヘルメットが白く飛んでしまっているが、実は「028」と描かれていることも分かった。CGアニメでは、細部まで描き込まれていても、後で加えられる光の演出によって隠されてしまうことがある。しかしHDRになると、より明るい光の中にも階調が増え、その下に描かれていたものが見えてくる。これは制作者にとって歓迎すべき進化だという。

ヘルメットに注目

 ポリゴン・ピクチュアズで「シドニアの騎士」を手がけた石丸健二プロデューサーは、「(映像を)何度も見ているが、まるで別モノのように情報量が多く、ディテールの量が違った」と話す。さらにシドニアの騎士で副監督を務めた吉平直弘氏も「星1つ1つの明るさが違う。トンネルから出撃するシーンでは暗いところに細かいディテールが出ていた」と指摘した。

左からポリゴン・ピクチュアズで「シドニアの騎士」を手がけた石丸健二プロデューサー、吉平直弘副監督、東芝映像ソリューションの山内日美生氏、Netflixでメディアエンジニアリング&パートナーシップを担当するエンジニアの宮川遙氏

 実は、今回の「シドニアの騎士」は、ポリゴン・ピクチュアズが主導してHDR化したものではない。素材をNetflixに渡し、米国でNetflixのエンジニアが再グレーディングを行ったものだ。そうした意味ではディレクターズ・インテンションを十分に反映しているかは分からないが、少なくとも完成した映像に対してポリゴン・ピクチュアズも満足のよう。吉平氏は、「製作時には『実際にその空間にいたらこう見えるだろう』と考えて暗い部分にもさまざまなグラデーションを入れている。それが画面から伝わってくるのはうれしい」と話す。「これまではSDRの狭いレンジの中で一所懸命、中間階調やコントラストをかせごうとしていたが、HDRで“見せたい画”を作れるようになる。今後はプリプロダクションの段階から照明設計、照明演出まで変わってくるだろう。これが標準になってほしい」(吉平氏)

「BLAME!」はさらに進化する?

 吉平氏のいう“今後”は既に始まっているようだ。Netflixのグレッグ・ピーターズ社長によると、「シドニアの騎士の次は、BLAME!(ブラム!)が控えている」という。

 ブラム!は、シドニアの騎士の原作者、弐瓶勉氏が1997年から2003年まで講談社「アフタヌーン」で連載していたSF漫画。その劇場版アニメの公開とNetflixでの独占配信が決定している。製作はもちろんポリゴン・ピクチュアズ。瀬下寛之監督と弐瓶勉氏(原作、総監修)が再びタッグを組む。

「BLAME!」(ブラム!)公式サイト。人類が“違法居住者”として駆除される暗黒の未来を舞台に主人公・霧亥(キリイ)の孤独で危険な旅路を描く

 「ブラム!は、制作時からHDR化に耐える形で作る。“拡張した”光と影の表現をする」と吉平氏。そしてNetflixのピーターズ社長も「ブラム!は今年半ばからNetflixで独占配信を行う。私も待ちきれなくてワクワクしている」とエールを送った。

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