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» 2005年10月27日 00時41分 UPDATE

東京ユビキタス計画──上野まちナビ実験始まる

物流や食品トレーサビリティの代名詞になりつつある、無線ICタグの技術を一般に広く普及させるため、観光客の多い町でガイド役を果たすユビキタス場所情報システムが構築された。

[江戸川,ITmedia]

 YRPユビキタス・ネットワーキング研究所と国土交通省が進めている「自律移動支援プロジェクト」。視覚障害者向けに無線ICタグを埋め込んだ展示ブロックなど、愛・地球博でも一部がお目見えしたものだ。その一環である「東京ユビキタス計画」の中で、「上野まちナビ実験」と呼ばれる大規模な実験が、東京都の協力で10月14日から11月30日まで行われている。

 上野まちナビ実験の目的は、研究成果の発表とユビキタスを広く世間に知ってもらうためのもの。ユビキタスで使われる無線ICタグの技術が、物流や食品トレーサビリティに特化しすぎて、一般に広く普及しないのではという誤解を避けるため、観光客の多い町でガイド役を果たすユビキタス場所情報システムが構築された。

 実は2004年9月に島根県の津和町において、観光ガイドとしての最初の実験が実施されており、先に取り上げた愛・地球博のほか、2005年4月には東京の浅草で現在のスタイルに近い実験が行われている。今回の上野の実験結果を踏まえて、時期は未定ながら銀座での実験も予定されている。

上野まちナビ実験の概要

 上野まちナビ実験のキーワードとなるのが、Ucode(ユーコード)だ。これはユビキタスコードの略で、「モノ」や「場所」1つ1つに付けられる、128ビット長を基本とした固有の番号である。この番号をICタグに格納したものが「Ucodeタグ」で、物流のシーンから食品の値札まで共通のものが使われている。

 Ucode自体は無線ICタグの採用が必須ではなく、利用シーンに応じて、赤外線やバーコードリーダ、あるいはキーボードによる入力などで、Ucodeセンターに登録される。今回の実験では、園内に300個ほど用意された無線ICタグのUcodeを認識したと同時に、そのコードに割り当てたコンテンツ(動画、静止画、音声など)をサーバから送り込むことで、専用端末にガイド役を担わせている。

ueno1.jpg (左)モニターに貸与されるユビキタスコミュニケータ。バッテリが2時間ほどしかもたないことから、モニターも2時間の制限となっている。(右)観光ガイドを目的とするだけあって、多国語に対応可能

 2時間ほどのモニターで貸し出される端末は、ユビキタスコミュニケータ(以下、UC)と呼ばれるPDA(といってよいかどうか)の一種。無線ICタグを読み取るリーダはもちろんのこと、無線LAN、Bluetooth、赤外線と十分すぎるほどの通信インタフェースを内蔵。VGAカラー液晶や200万画素カメラ、指紋認証、miniSD/SD/SIMの各スロットと、何でもありの端末だ。

 このUCを持って、実験会場となる上野恩賜公園および恩賜上野動物園を巡るわけだが、UCにはGPSが内蔵されており、「オススメコース」のナビゲーション機能が用意されている。そして、コースの途中にいくつも設けられた動植物や建物などの説明プレートに触れることで、その中にあるICタグのUcodeを読み取るわけだ。UCをプレートにタッチさせると、短い動画を中心にした旅行ガイド風のコンテンツが自動的に再生される。

ueno2.jpg (左)オススメコースの選択画面。カーナビと違って自分の位置の履歴は表示されない。もちろんコースに逆らって回るのもOKだ。(右)クスノキの解説には、静止画と音声が使われていた。繰り返しの再生は可能だが、情報を記憶させておくことはできず、次の情報を読み込んだ後ではもう再生できない。

課題は多いが実現すれば便利

 一般モニターまで募集するくらいだから、よほど使い勝手に優れたシステムなのだろうと思うと、実はこれがまだまだ開発途中であることを思い知らされる。まずはナビゲーション機能の貧弱さだ。画面に地図を表示しながら自分の現在位置を刻々と表示するのではなく、曲がり角に来たら進むべき方向を案内する。さらにヘディングアップに対応していないので、動物園内のような複雑な道では、地図を見てもどちらに向かえばいいのかすぐに理解できない。

 また、ナビ機能とはいっても、オススメルートを外れた場合の再検索などはなく、紙の地図を頼りに正しい道を探すことになる。液晶画面の地図は、GPS測位中はうまく表示されず、ほとんど役に立たない状態が続く。さらに肝心のUcodeを、UCが読めないケースも多々あり、端末の性能の問題も含めて、不特定多数の人が使うであろう観光ガイドの切り札というには課題も多そうだ。

ueno3.jpg

 だが、実用化されれば便利なことは確か。美術館などの観光ポイントに近づくとGPSによってそれを探知し、プッシュ式で情報配信が行われる。美術館の入場料金やその日のイベント、レストランの営業時間など、そこを訪れるのに十分な情報が手に入る。またオススメルートの周辺情報(宿、食事、おみやげ)や、名所・旧跡の由来などもプッシュ式で届き、「なるほど」と思わずうならされる。

 観光ガイドを使いたいのは、その町を初めて訪れたというケースになるはずだ。知らない町だからこそ、こうした(おせっかいなほどの)情報配信は助かるはず。特に今回の実験で評価したいのは、Ucodeの読み取り以外は操作が不要で、ITの知識に関わりなく誰でも利用できる点だ。また、外国人観光客にとっては言葉の問題もクリアできるので、「外国語のできるガイドがいない」という観光地にとっても導入のメリットがあるだろう。

ユビキタスでも携帯電話が主役か

 さて、モニターに参加して「これは素晴らしいものができた!」と思う一般の人はどのくらいいるだろうか。確かに動物たちの知られざる情報を得られるなど、面白い取り組みであることは評価できる。だが端末の完成度の低さが、今回の実験を評価する上でのネックとなりそうなのだ。特にITの知識があればあるほど、評価は厳しくなるはずだ。

 実際に、UCで提供される機能のルートナビゲーション、周辺地域情報、観光情報、動物情報などはいずれも、現在の携帯電話でもそこそこできるはず。むしろナビ機能などは、携帯電話のほうが実力はありそうだ。無線ICタグも、決して携帯電話で読めないことはないだろう。

 こうして考えると、現在UCでうまく動いてないものはそのままにして、携帯電話での実現を検討しても良さそうだ。もちろん、ドコモなどの事業会社の実験ではないし、一足飛びに問題が解決するわけではないが、一般モニターにも分かりやすい形になることはほぼ間違いない。

 いつでもどこでも、情報にアクセスできるというユビキタス社会は、やはり携帯電話が主役になりそうだ。

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