定額・1 IDで各種サービスを簡単に利用可能──アッカ・ワイヤレスのWiMAX戦略

» 2007年10月12日 17時24分 公開
[園部修,ITmedia]

 アッカ・ネットワークスの子会社アッカ・ワイヤレスは10月11日午後、次世代高速無線の基地局開設計画に関する申請を行い、2.5GHz帯争奪戦に正式に名乗りを上げた。

 アッカ・ワイヤレスの特徴は、総務省から3分の1規制を受けたNTTドコモが出資することを明らかにしている点だ。イー・アクセスとソフトバンクの連合体であるオープンワイヤレスネットワーク(OpenWin)、KDDI主導のワイヤレスブロードバンド企画、ドコモが参画するアッカ・ワイヤレスと、携帯電話事業者がそれぞれにパートナーと提携してモバイルWiMAXの免許取得をめざすことになった。

既存のデータ通信サービスより安い定額サービスに

Photo アッカ・ワイヤレス社長の木村正治氏

 アッカ・ワイヤレス社長の木村正治氏が以前から話しているように、同社が目指すのは、世界的規模での展開も視野に入れた、オープンな水平分業モデルだ。世界標準であるWiMAXを採用し、世界各国で利用可能なサービスを目指すほか、さまざまなパートナー企業と手を組んで、新たな市場開拓も行っていく。もちろん親会社のアッカ・ネットワークスが手がけるADSLや光ファイバーなどの固定系ネットワークとの連携も図る。

 「いつでも誰でもどこでも、ユビキタスサービスを実現できる世界を目指し、社会に貢献していくのが目標」(木村氏)

 そのために、免許取得の暁には、サービスは定額で提供すること、さらに利用に当たっての申し込みや利用開始が非常にシンプルな形で行えるようにすることを表明した。携帯電話のように、購入時に細かな契約手続きが必要だと、たとえばデジタルカメラや冷蔵庫などの家電にWiMAXが搭載された場合に購入方法が煩雑になってしまう可能性がある。こうした問題を避けるため、アッカとしては通信サービスの契約者に1つのIDを提供し、そのIDが複数のデバイスで利用可能なようにしたい意向だ。

 「1 ID、マルチデバイス方式でのサービスを行いたい。現在の携帯電話のように、機器に依存するサービスではなく、どんな機器でもWiMAXが搭載されていればサービスを利用できるようにしたい」(木村氏)

 事業展開は、主にインフラの構築と、通信機能やアクセスサービスの提供が中心になる。サービス開始当初は、アッカ・ワイヤレスブランドのデータ通信カードなどを用意し、PC向けの定額インターネット接続サービスなどを提供することになる。その後2009年くらいをめどに、WiMAXの機能を持つ小型で安価なチップが登場すれば、ゲーム機や家電など、あらゆる電子機器が無線機能を搭載するようになり、MVNOなども含め多種多様な通信サービスが展開されていくとしている。

PhotoPhoto アッカ・ワイヤレスは「グローバルスタンダード」と「オープンな水平分業モデル」を当初から掲げている。WiMAX対応端末は、当初はPC向けのデータ通信カードになるが、その後はPCのチップセットに標準搭載され、2010年ころには端末などへの組み込みも始まると見る。2011年ころには車載端末などの需要も取り込みたい考え

サービスは2009年3月に東京都内からスタート予定

 エリア展開は、2009年3月に東京都内からスタートし、2009年中に首都圏の16号線内と大阪市、神戸市、京都市、名古屋市をカバー。2010年には関東主要都市、関西主要都市、中部地方主要都市、札幌、仙台、静岡、福岡へ、そして2011年以降は全国に広げていく。設備投資額は2015年までに累計2000億円を予定している。

 人口カバー率は2009年に約30%、2010年に約50%を達成し、2012年までに総合通信局の管轄区域ごとの人口カバー率を50%に持って行く。2013年には約70%にする計画で、基地局の展開にはドコモの協力を得る。具体的には、基地局の配置や展開のノウハウを共有するほか、ドコモの販売力や開発力も生かしてインフラを作る。ドコモの施設などを利用した基地局の併設なども行うという。

 加入者数は、2009年に25万加入、2013年までには500万加入を獲得し、売上高も20013年までに1500億円を達成する見込み。計画通りユーザーが獲得できれば、経常利益での黒字化は2012年に達成するという。ちなみに損益分岐点は「料金設定次第で若干変動する可能性がある」(木村氏)としながらも、350万から400万加入で黒字化が達成できる見込みだとした。

PhotoPhoto アッカ・ワイヤレスのWiMAXサービスは、免許が取得できれば2009年3月には開始する計画。下り最大40Mbpsでのサービスを提供する。サービスエリアは2009年中に首都圏の16号線内をカバーするほか、大阪市、神戸市、京都市、名古屋市などに展開し、2010年には人口カバー率50%、2013年には人口カバー率70%をめざす

放送、海外キャリア、商社、証券、鉄道、ISPなど16社で“オープン性”をアピール

Photo 16社の連合となったアッカ・ワイヤレス

 2.5GHz帯を利用してモバイルWiMAXサービスの提供を計画している事業者としては最後の陣容発表となったアッカ・ワイヤレス。その内容は、アッカ・ネットワークスが半分近い出資比率を維持して主導権を握りつつ、幅広い業界からの出資を募ったものだった。

 アッカ・ネットワークスのもっとも強力なパートナーであり、実証実験や無線基地局設置などのノウハウを提供するNTTドコモの出資比率は25.3%で、アッカ・ネットワークスに次ぐ第2位に付ける。ちなみに出資比率が33%より少ないのは、グループ会社のNTTコミュニケーションズがアッカ・ネットワークスに出資していることに配慮したもの。NTTドコモとNTTコミュニケーションズの比率を合計しても3分の1を超えないように比率を調整している。

 ドコモに次いで大きな比率で出資するのがJPモルガン証券の8%、そしてアッカ・ネットワークスの株主でもあるIgnite Groupの4%。そのほか新規参入航空会社スターフライヤーの最大株主でもあるベンチャー投資会社、米Doll Capital Managementが3.3%出資するなど、金融機関やファンドも関与している。またオープンワイヤレスネットワークと同様、ISPも朝日ネットが1.7%、NECビッグローブ、ソネットエンタテインメント、ニフティ、フリービットがそれぞれ0.2%ずつだが参画する。

 また興味深いところでは、韓国でWiBro(WiMAXの互換企画)を手がけ、ドコモと提携関係にある携帯電話事業者KTも参画する予定だ。出資比率など具体的な計画はまだ明らかにされていないものの、ドコモとHSDPA端末の共同調達を行うなど、すでに協力の実績もあり、日韓で共通に使えるWiMAX端末などが登場する可能性もある。アイテック阪急阪神や京浜急行電鉄など、鉄道事業者も出資を表明しており、車載や鉄道などでの利用を前提にした新しいサービスなども提供していく。

 他の陣営にはいない、放送事業者TBSや総合商社三井物産、WiMAXの研究開発を行っている拠点の1つYRP事業開発研究所などが名を連ねているのも特徴といえるだろう。木村氏によると、出資者は今後も募っていく方向だといい、さらに参加企業は増えそうだ。

PhotoPhoto 経営をリードするのはアッカ・ネットワークスで、ドコモはサポート役という位置づけ。パートナー企業は幅広い業界から集まっており、オープン性をアピールする。総勢16社の連合になった

あくまでも控えめなドコモ

 多数の企業が、さまざまな思惑を持って集まったアッカ・ワイヤレスの中にあって、ドコモの立ち位置は他の携帯電話キャリアよりややおとなしめな印象だ。ドコモは、アッカ・ネットワークスとの提携の際にもプレスリリースで「アッカがかねてより掲げてきた『グローバルスタンダードをベースにしたオープン/水平分業モデル』の実現というWiMAX事業における基本方針に賛同し、合意に至りました」と説明するなど、控えめな態度に終始している。

 WiMAXサービスをドコモブランドで提供することは明言したが「MVNOのような形で提供することになる」(中村維夫社長)と話すにとどめており、“事業主体はあくまでもアッカ・ワイヤレス”という姿勢を崩さなかった。

 とはいえ、ドコモブランドの携帯電話にWiMAXを統合していく方針であることは間違いないようだ。時期については「端末メーカーの対応次第」と話し、明言しなかったが、データ通信カードだけでなく、端末をリリースするつもりがあることは認めた。

 「HSDPAの通信速度は下り最大3.6Mbps。その次に来るスーパー3Gは通信速度が100Mbpsを超えるところまで高速化されるが、スーパー3Gだけですべてが実現できるわけではない。動画配信などが一般的になると、帯域が逼迫する可能性もあるし、スーパー3Gのネットワークにはそれなりの投資が必要なので、おそらく安価には提供できないだろう。その点で、HSDPAとスーパー3Gの中間に位置する下り最大40MbpsのWiMAXは都合がいい。2000億円で作れるネットワークなら、サービスも安価に提供できる可能性が高く、ユーザーにさまざまな選択肢を用意できる」(中村氏)

 なお報道陣からは「免許が取得できなかった場合、他の陣営と相乗りすることもあり得るのか」という質問も出たが、「免許はなんとしてでも手に入れたい」と話すにとどめ、その可能性については触れなかった。

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