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最終章-1 ガンダムも参戦できる「ROBO-ONE」人とロボットの秘密(1/2 ページ)

» 2009年06月09日 16時19分 公開
[堀田純司,ITmedia]

人とロボットの秘密

 ロボット工学を「究極の人間学」として問い直し、最前線の研究者にインタビューした書籍「人とロボットの秘密」(堀田純司著、講談社)を、連載形式で全文掲載します。

バックナンバー:

まえがき 自分と同じものをつくりたい業(ごう)

第1章-1 哲学の子と科学の子

第1章-2 「アトムを実現する方法は1つしかない」

第2章-1 マジンガーZが熱い魂を宿すには

第2章-2 ロボットは考えているのか、いないのか

第2章-3 アンドロイドが問う「人間らしさ」 石黒浩教授

第3章-1 子どもはなぜ巨大ロボットが好きなのか ポスト「マジンガーZ」と非記号的知能

第3章-2 「親しみやすい」ロボットとは 記号論理の限界と芸術理論 中田亨博士の試み

第4章-1 「意識は機械で再現できる」 前野教授の「受動意識仮説」

第4章-2 生物がクオリアを獲得した理由 「受動意識仮説」で解く3つの謎

第4章-3 機械で心を作るには 「哲学的ゾンビ」と意識

第5章-1 ガンダムのふくらはぎと「システム生命」

第5章-2 機械が生命に学ぶ時代 吉田教授の「3つの“し”想」

第6章-1 人とロボットの歩行は何が違うのか

第6章-2 ロボットが“ものをかむ”には

第6章-3 人の心を微分方程式で書けないか 高西教授の「情動方程式」モデル


←前回「第6章-3 人の心を微分方程式で書けないか 高西教授の「情動方程式」モデル」へ

驚くほど多様な日本の二足歩行人型ロボット

 アマチュアのロボットビルダーが集い、自分たちがつくったロボットを戦わせる、「ROBO‐ONE」というイベントがある。筆者はその山形で行われた大会を訪れ、予選とその翌日に行われる本選を観戦したことがある。

「ROBO‐ONE」は世界で唯一の二足歩行ロボットによる格闘技の大会。このイベントについて、「ぜひ予選から見ておいたほうがいい」と教えてくれたのはサンライズの井上幸一氏だった。井上氏はサンライズにて企画を担当し『魔神英雄伝ワタル』(88年)、『勇者エクスカイザー』(90年)、『機動戦士ガンダム MSイグルー 一年戦争秘録』(06年)などのプロデュースを手がけてきた人。この「ROBO‐ONE」の公式審査員でもある。

 サンライズについてはすでに述べた。伝統的に「巨大ロボットもの」作品を手がけ、多くの名作を世におくってきたアニメーションの製作会社である。

 このサンライズは2005年より「ROBO‐ONE」に協賛しており「ガンダムシリーズ」『太陽の牙ダグラム』(81年)『装甲騎兵ボトムズ』(83年)『聖戦士ダンバイン』(83年)『銀河漂流バイファム』(83年)「勇者シリーズ」と、この6作品に登場するロボットをモチーフにした機体を製作し、参戦することを許諾している。「ロボットもの」とともに歩んできた同社ならではの粋なはからいと言えるだろう。

 ちなみに、この6作品に登場するロボットとは、1979年からはじまった「ガンダムシリーズ」ではかの有名なモビルスーツ。宇宙植民時代、ミノフスキー粒子という電磁波攪乱物質の発見にともない、近接しての有視界格闘戦が主流になった戦場に登場した強化服という設定だった。

 1981年放映の「ダグラム」のロボットは、コンバットアーマーと呼ばれる。Xネブラという電磁波の影響で、演算装置などの性能が低下する植民惑星で運用された。不整地踏破能力を重視し二足歩行を採用したと記憶している。サイズこそ10メートル前後だったが、この作品のロボットはあたかも建設機械やジープのような、ヘビーな重量感を漂わせていた。

 1983年に放映され、その後、現在も関連作品がつくられている『装甲騎兵ボトムズ』のロボット、アーマード・トルーパーは、さらに機械のリアリズムを感じさせる機体だった。全高は4メートル前後と他と比べて小型(巨大ロボットもの、と言えないかもしれない)。量産される兵器であり、この作品ではなんと、ガンダムやダグラムのように「ものすごく強い無敵の主役ロボ」といった存在は登場しない。

 同じく1983年放映の「バイファム」で活躍したラウンドバーニアンもまた“無敵のスーパーロボ”ではなく、量産機械の雰囲気を持っていた。

 だがしかし「ガンダム」以降のロボットアニメはリアル志向のものばかりだったのかというと、そうではない。

 やはり1983年に放映された『聖戦士ダンバイン』は、バイストン・ウェルという異世界が舞台。SF分野の出身であるロボットものと、剣と魔法のファンタジー世界が融合した、不思議な世界観を持っていた。この作品のロボット、オーラバトラーは異世界の生物を材質とし、操縦者のオーラ力(ちから)という生命エネルギーで動く異色のロボット。現在でもファンが多い。

 90年代を代表するシリーズとなった「勇者シリーズ」では、「ガンダム」以来、ファンの年齢とともに内容も難しめになってきたロボットものがいわば原点回帰を果たし、宇宙警察カイザーズという宇宙エネルギー生命体が地球の乗り物と融合、変形して戦うという、アニメーションならではのロボットが登場、子どもたちの心をつかんだ。

 彫刻のようないかめしい目鼻立ちとロボットの無機質さが混在するそのマスクは、いわゆる「勇者顔」として、ロボット造形のひとつの典型となっている。

 こうして「ROBO‐ONE」で製作を許諾された6作品のロボットを振り返るだけでも、「巨大ロボットもの」アニメがいかに多様であったかがしのばれる。

「ROBO‐ONE」の予選当日の控え室。大きめの教室ぐらいの部屋はほぼ満員で、机には複雑な機械がところ狭しと置かれ活気に満ちていた。

 そこかしこに「分解された個々のパーツが結線をむき出しに転がされ、通電されるたびにビクビクと動く」といった“マシンニック”な光景ももちろん見られるが、それ以上に印象的だったのは、みなロボットにコンピューターを接続し、ディスプレイの画面で入念にプログラムをチェックしていたことだった。

「モーションデータを徹夜でつくり直した」「前転ができるようにプログラムを書き換えた」などとの会話も飛び交い、ロボット製作ではソフトが大切になってきていることが感じられる。

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