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ミク、めぐぽ、春香――3つの歌声を持つヒューマノイドに会ってきたCEATEC JAPAN 2009

» 2009年10月09日 15時35分 公開
[松尾公也,ITmedia]

 CEATECでヒューマノイドレディー、HRP-4C「未夢」(ミーム)に会ってきた。初音ミクではない、2つのVOCALOIDの歌声を聴くためだ。1つはメグッポイドだがもう片方は不明。そんな彼女の謎がようやく判明した(新VOCALOID「CV-4Cβ」、CEATECで歌う 声は中村繪里子さん)。

 「未夢」は3つの声を持つ。1つは初日で紹介した初音ミクコスプレのCV-01こと初音ミク。CEATECの2日目と4日目に登場するメグッポイド。これはGUMIのコスプレをしている。服を着ていない「素体」の「未夢」が歌うのは、謎の新VOCALOID「CV-4Cβ」だった。

 彼女の正体は。NetVOCALOIDやNetぼかりすなどを担当しているヤマハY2 PROJCETのTwitter公式アカウントが、こうつぶやいた。「未夢の声の『中の人』をご紹介します。中村繪里子さんです」

 中村繪里子さんといえば、ゲーム「THE iDOLM@STER」(アイマス)の人気キャラ、天海春香の声で有名。アイマスで双海亜美/真美の声を演じる下田麻美さんも、CV-02の鏡音リン・レンを担当している。「春香」「閣下」と親しまれている中村さんの歌声やおしゃべりがVOCALOIDとして使えるようになれば、鏡音リンの「とかち」と同様に人気になるはずだ。

 この新しいVOCALOIDデータベースを開発したクリプトン・フューチャー・メディアの佐々木渉氏は公式ブログで、CV-4CβはCVシリーズの試作で、別途企画中の新シリーズとは無関係であると説明。VOCALOID2パッケージ商品での展開は想定しておらず、今後のリリースは全くの未定としている。

 「今後もHRP-4CさんとCV-4C DBは仲良くやって良ければ」ともあるので、今後も「未夢」の声として使われていく可能性は高そうだ。

 CEATECの最終日である10月10日の午前12時から、中村さん、クリプトンの佐々木さんが開発秘話を披露してくれるので、CV-4Cβの今後については、ここで明らかになるかもしれない。

 それにしてもクリプトンのVOCALOID関連開発は活性化している。CV-4Cβ以外にも、「声優でもプロ歌手でもなく、強いて言えば、ミュージカルの訓練を受けている方」を採用する「新シリーズ」の存在が明らかにされており、初音ミクの「新しい声の表情」である「CV01 Hatsune Miku Append(仮称)」も予定されている。

未夢のVOCALOID歌唱に指令を与えるのは?

 ヤマハブースについては、ロボットは小笠原由依記者が、セカイカメラは山田祐介記者がリポートしているので、細かいところだけ補完しておこう。

 まずはコスプレ衣装について。CEATEC初日は初音ミクの衣装だった未夢だったが、2日目はGUMI(メグッポイド)の衣装も着た。「VOCALOIDの父」であるヤマハの剣持秀紀氏が自ら購入したコスプレ衣装は、初音ミクとメグッポイドの2着合計で13万円。高めに思えるのは、産総研で採寸してオーダーメイドしたからという。ウィッグはどちらも市販品。


画像 “素体”のCV-4Cβ
画像 ミクの姿
画像 GUMI(メグッポイド)の姿

 衣装に凝ったわりに「不気味の谷」「ふとましい」などというネットの声が上がっている。HRP-4Cの腹部から腰にかけてはボディ自体が膨らんでいるのだから衣装を着せたらそうなるのは当然なのだが、すばらしい造形の3Dモデルやイラストを見慣れているミクファンにとっては違和感があるのはしかたないところ。身長と体重は初音ミクとほとんど同じなのだが。

 衣装に関しては「GUMIのほうは自信がある。自分でもドキっとした」とY2 PROJECTの大島治氏。確かにGUMIのほうはアヒル口なところが似てる感じもする。素体、初音ミクコスプレ、GUMIコスプレとを比較すると、確かにGUMIのほうは「アリ」な気がする。

 このGUMIコスプレで使われたVOCALOIDはもちろんメグッポイドなのだが、なぜか大阪弁をしゃべる。たぶん開発会社のインターネットが大阪の企業だからだろう。

しゃべる仕組みは

 さて、このVOCALOIDとHRP-4Cの連携についても追加情報を少々。今回のヤマハブースはセカイカメラによるエア動画(仮称)、エアピアノ、ディスクラビアのPiano LifeLogと連動するiPhoneアプリのFingerPiano Shareなど、iPhoneが大活躍しているが、未夢への指令に使われたのもその姉妹機であるiPod touchだ。

 iPhoneにセカイカメラをインストールしているユーザーがエアシャウトというタグを送信するという、かなりユーザーを限定したリクエスト(エアシャウトがなかった場合には観客から直接リクエストを受け付ける)で曲が決まったら、その曲はレパートリーからチェックボックスで選ぶ。リクエストしてくれた人の名前をモバイルSafariのフォームに入れる。

 これを見ると、かなりのレパートリーをもっていることが分かる。ミクのヒット曲だけでなく、「愛しのエリー」「異邦人」などの懐かしめのJ-POPも歌える。

 ここから無線LANを通してバックヤードにあるPCにデータが送られて、曲のVSQファイルとおしゃべりの部分が合成され、リップシンクの命令が未夢に、MIDIの演奏情報がプレイヤーピアノにもなるグランドピアノ「ディスクラビア」に送出されるのだ。

 しゃべる部分は、従来のVOCALOID Editorとは異なる拡張プログラム。歌うための演奏情報と話すための演奏情報は異なるからだ。これは、謎の新VOCALOIDであるCV-4Cβだけでなく、初音ミクもメグッポイドも、このプログラムを通すことによりおしゃべりに対応できる。産総研のぼかりすとも違う、ヤマハの独自技術だという。

 未夢側には受け口を用意してもらい、そこにリップシンクのためのデータをヤマハから送り込む。リップシンクの生成プログラムはヤマハが今回のために開発したもの。リップシンクだけでなく、まばたきなどの表情もここでプログラミングしている。

 せっかくのHRP-4Cなので、踊ったりアイドルらしい振りをさせたいところだが、発熱や急な動きへの対応など課題も多く、それは今後のネタとして取っておくことになりそうだ。2日目の最後のデモでは、「3曲目いけますか?」という司会者の問いかけに、バックヤードの担当者が「×」をジェスチャーで示すというシーンが見られた。あまり無理はさせられないようだ。

 ヤマハは、VOCALOIDの組み込みへの応用を示唆した。基板として、さらに将来的にはワンチップ化することができれば、未夢に内蔵することも可能になるだろうし、ヤマハのピアノやシンセサイザーといった商品群以外へのさまざまな利用も考えられる。単体で歌をうたえるVOCALOIDケータイも登場するかもしれない。

 一方で、VOCALOID側の課題も見えた。歌声がリアルな容姿や動きを持つロボットからリップシンクで発せられ、しかもピアノの生音と組み合わせられると、VOCALOIDの発声の不自然な部分がクローズアップされてしまう。特に今回のように大音量で流した場合。「もっと音質をよくしなければ」との声もスタッフから上がっていた。声のバリエーションが広がるVOCALOIDだが、エンジン部分もさらに進化するはずだ。

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