それにしても、今年に入ってからの中国でのネット規制は気味が悪い。香港デモをきっかけにしたInstagramのブロックにとどまらず、
──とこれほどまでにある。さらには中央政府の政治委員が「ウイグル関連のテロはネット規制の壁を越えて海外の動画サイトにアクセスしているのが一因」とコメントし、ネット規制をかいくぐる、いわゆる「壁越え」を非難したこともある。
これからを予想する上で、過去のネット検閲を振り返ってみよう。2009年から2010年にかけての動きが特に目立っている。
2009年7月、新疆ウイグル自治区のウルムチで大規模な騒乱が発生。このタイミングでそれまでアクセスできたYouTubeにアクセスできなくなった。この夏、Windows搭載PCにフィルタリングソフト「グリーンダム」のプリインストール義務化という動きがあった(ユーザー側はソフトをハッキングしたり、萌えキャラ「グリーンダムたん」を生み出すなどして対抗する)。
グリーンダムでいよいよ検閲が表面化すると、少数のヘビーユーザーが「政府には迷惑をかけないから、自由にネットを利用させてほしい」という「2009匿名網民宣言」(匿名ネットユーザー宣言)を発表。様々なサイトに転載されたが逐一削除され、転載先のGoogle Driveもアクセス禁止になった。
10年1月、Googleは中国サイト「google.cn」について「これ以上検閲について容認できない」と、検索結果の検閲を停止。3月には同社検索サーバを香港に移動させた。
同年には、中国当局は愛国色を強めたネット浄化キャンペーン「緑色・陽光網絡工程」を実施し、多数のサイトやアカウントを取り締まった。同年後半には淘宝網(TAOBAO)でVPN、SSHサービスの商品が削除された。ちなみにこの年、セクシー女優の蒼井そら氏がTwitterアカウントを開設し、1万以上の中国ネットユーザーがネットの壁を越えてアクセスしていた。
グリーンダムというと萌えキャラ化のイメージばかりがあるが、端末側に仕掛けをつくろうとする点においては「TVOS 1.0」とグリーンダムは共通しているし、またYouTubeなど外国サービスにコンテンツをアップすることで削除できないようにしたり、そのための使用されるVPNに嫌悪感を示している点も一貫している。
「グリーンダム」は、中国政府がネットで検閲をしようとしていることを赤裸々にした。だが、これ以前にも検閲の動きは薄々感じられていたようだ。
06年から07年にかけ、ヘビーなネットユーザーが検閲の存在について語り始めている。例えば「被和諧」(政府が打ち出した「和諧社会」を皮肉り、転じてアカウントやコメントが消されるという意味)や「五毛党」(ネット論壇の政府賞賛のサクラアカウント。1書き込みにつき0.5元もらえるという噂から)といった現在でも通じる検閲を示唆するワードは、このころ登場したものだ。
また06年には中国政府国務院の蔡武氏が「中国のネットユーザーは、実際世界で最も自由だ」と発言したが、ネットユーザーはこれを失笑ものとしてシェアし、検閲を知らなかった人に暗に伝えていた。
11年以降は、堂々と検閲について紹介するニュースも多く登場しており、検閲の存在を無理に隠そうとすることはなくなっている。中国のネットユーザーに最も身近な微博や微信で露骨に検閲が行われるようになった結果、もはや都市部の若きネットユーザーで検閲を知らない人はいない。
ネットの自由が大きく奪われている中、多くのネットユーザーが、より明白に、より厳しくなったネット検閲を目の前のモニターで感じながら、何も抵抗することなく提示された官製ネットライフを楽しんでいる。だが、ごく一部であっても、「2009匿名網民宣言」のようなネットユーザーからの民主化の訴えを掲げ、波紋を投げかけることを期待したい。
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