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» 2004年03月10日 20時18分 公開

インタビュー:日本アニメのスタイルでこれ以上はできようもない エフェクト担当者に聞く『イノセンス』 (2/2)

[大出裕之,ITmedia]
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 抽象的な指示を、実際の輝度やRGBの色に自分の頭の中で変換するのが手間どりました。たいていは作業を始める前に頭の中で作って、ただ単に実行するだけなのですが、なかなかうまくいかなくて、つい最近もこんなんじゃなかった、ってエフェクトが上手くいかない夢を見ました(笑)。ここへいけばいいという目的地が見えていればいいのですが、それが揺れ動いていると、なかなか難しいですね。

 これなら絶対OKが出るだろう、という確証がないままで出したりすることもありましたから。

実際のエフェクト作業を教えてください

 美術(背景)とデジタルペイントされたセルが上がってきてからが実際の作業になります。Animoのほうで背景の位置決めをして、デジタルペイントされたセルをどのようにおいて、という基本的なことを決めます。エフェクトはその時点では一切かかっていません。

 この位置決めが終わった素材からビットマップ化し、TIFFの連番ファイルを吐き出します。それをAdobe After Effectsに読み込んで、初めてエフェクトをかけます。

 いったんある程度まとめてプリコンポジションするので、それを展開すると、だいたい20枚くらいでしょうか。それをAdobe After Effectsに入れるので、プリコンポジションのものを展開したとすると、2、300レイヤーくらいは簡単にいきますね。

 一番ヘビーだったのは、人形を炎に投げて焼くところや、ヤクザと銃撃戦をするシーンで、重なったヤクザ一人ひとりに、薬莢と、銃のマズルフラッシュと、銃から出る煙とが重なるシーンです。

 Animoとのデータのやり取りは、中央にSamba互換のサーバを置いています。私はMacなので、DAVEを使っています。作業が終わったらここに置く、などのルールを決めて運用しています。

((C) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD)

 前述のように1670万色では、マッハバンドが出てしまいます。RGB256色の場合、レイヤーを微妙な重ね方をしようとすればするほど、割り切れない数字が出てきて、縞模様が出てしまいます。ですので、作業はすべて16ビットで行い、劇的にマッハバンドは減りました。

 Adobe After Effectsに16ビットのレンダリング機能がついていなかったら、ちょっと厳しかったかも知れません。16ビットはこれから先欠かせないと思います。最終的には8ビットで十分ですが、その前段階で重ねてゆくレイヤー構造を保持する段階では、1670万色では足りません。

 モーショントラッカーとかエクスプレッションのような便利な機能は使いますね。絵作りと言うのは、どういうところを暗くしてどういうところを明るくすればかっこよく見えるか? というこだわりであって、単純な労働に時間を奪われると、画面にこだわれるわけがありません。空いた時間はすべて画面のクオリティにつぎ込むべきなのです。そのためにも、機械的にできることは全て自動化するべきです。

 クオリティチェックには、見せしめ的というか、覚悟のためのモニタを横に置いています。これだけ変わっても絵として成立しているかどうか、ということを確認するためのものです。3万2000色でTVのほうにウインドウをドラッグして、RAMプレビューでバンディングが出ないこと、というのを私の班の基準としていました。

江面氏のデスク。Adobe After Effectsでエフェクト作業は行われた。右側のディスプレイは普及価格帯の家庭用テレビ。左側はカラーマネジメントされたディスプレイ

イノセンスのエフェクトレベルは、どの程度に達していると思いますか?

 日本のアニメーションの持っている作風は、影が塗り分けられて輪郭で成り立つものです。ハリウッドアニメのようにグラデーションで成り立つのではなく、デザイン的に塗り分けられて成り立っており、線で区切られたものを残した上で、圧倒的な質感の美術に乗せ、しかもちゃんと作品として成立する。

 このスタイルの中では、これ以上できようもない、と思います。バトーを3Dにしたり、グラデーションで滑らかにしたり、というスタイルではまた別だと思いますが。日本のアニメーションのスタイルを残したまま、やれることはだいたいやっていますね。

 少なくとも2,3年前では、こういった効果を動かそうなどとは思えなかった。何カットにもわたっていますし。でもこういうところにこういうエフェクトをかければ、という経験の蓄積もありますし、ソフトとハードの進化のおかげで、墓場までもっていく作業ではなくなりました。ちゃんと月産どのくらい日産どのくらい、と数字が読めるようになりましたから。

 Adobe After Effectsの使い方ですとかAppleScriptの使い方ですとか、クライアントとサーバのワークフローの構築ですとか、普通だと大変な作業をいかに生産ラインに乗せるか、なおかつ生産ラインに乗るような集団に仕上げるか、という点で、ハードルは高いような気がします。

 既存のアナログ時代の技術の中にも、最終的な撮影でかっこいい撮影技法とかがありまして、それにデジタルがなかなか追いつかない点もありますね。そういう意味でアナログ時代の技法はふんだんに取り入れていますし、軽んじてはいません。私もその時代からやっている人間ですので。

 とはいえデジタルがアナログの模倣品になるのはだいっきらいなので、デジタルの利点とアナログ時代の利点を両方生かせばいいのだと思います。アナログはこうだったという言い方は嫌いだし、デジタルはこれしかできない、と言われるのもいやですね。最終的には映像ですから。

 エフェクトとしての見せ場は、ヤクザ事務所の襲撃シーンです。それから鑑識課のシーンですとか、人形を炎で燃やすシーンとか。また一番最後のほうの戦闘シーンは、楽しんでもらえたらと思います。


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