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「仕様書と違うから作り直せ」は通用しない? メーカーが語らないOEMビジネスの実情牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2017年05月27日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]

←・前回記事:「外注したら仕様と違う製品が送られてきた」 メーカーの悲劇はなぜ繰り返される?

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 OEM・ODMビジネスでは、要求した本来の仕様とは異なる製品が外注先からメーカーへと納品されるケースは日常茶飯事だ。こうしたトラブルが発生した場合、普通に考えると、メーカーがこれらの外注先に対して、契約に基づいた毅然とした対応を取る……となるわけだが、実際にはなかなか難しい。

 もちろん「仕様書と違っているのだから作り直せ」の一点張りで押し通すこともできなくはないのだが、実際にはメーカーの側が泥をかぶることが少なくない。明らかに外注元に瑕疵(かし)があるにもかかわらず、メーカーが責任を負う形で事態を終息させるやり方は、現場で実際に交渉したことがない人からすると、おかしな対応に思えるはずだ。

 なぜそのような事態が発生するのか、今回はそんなOEM・ODMビジネスの裏事情を見ていくことにしよう。要求した仕様と異なる製品が納入されがちな事情については、前回の記事も併せてお読みいただきたい。

メーカー側が折れることで外注先に「貸し」を作る

 仮にも契約をきちんと取り交わしており、おおむね外注先の側に問題があるようなケースでも、メーカーが泥をかぶらざるを得なくなるパターンの1つに、取引上で何らかの「貸し」があるケースが挙げられる。

 実際のところ、生産にあたってメーカーがスケジュールや価格などの面で外注先に無理な要求をしている場合は、この種の問題が発生したとしても、メーカー側はなかなか強気に出にくい。仕様書の解釈違いのように、メーカーにも少なからず責任の一端がある場合はなおさらだ。

 また、現実的にそれらの生産をやり直させた場合、他の製品の生産スケジュールに大きな影響が及んでしまう。生産だけならまだしも、設計段階まで戻ってやり直すのであれば、数カ月レベルの遅れは必至だ。同じ外注先に他の製品も生産させている場合、そちらのスケジュールにもしわ寄せが発生しかねない。

 そのため、仕様の違いがそれほど大きいものでなく、やり方によっては売り物になるレベルであれば、価格を大幅にディスカウントするなどの条件を付けた上で、メーカー側が製品を引き取る形で決着することはよくある。

 つまり表面的にはメーカー側が折れる形を取り、そのぶん外注先に対して貸しを作るわけである。その外注先との取引が今後も続くのであれば、ビジネス上は有効な方法と言える。

 余談だが、製品発売の直前になって「仕様変更のお知らせ」というプレスリリースが出るのは、こうした経緯を経ているケースが多い。つまり既にその仕様で製品が完成してしまっていて、仕様の側を訂正しない限り、破棄するか、別の型番として売るかないというわけだ。

客を巻き込んだトラブル対応にはメーカーの姿勢が如実に現れる

 そんな中、大きなトラブルに発展しやすいのが、発売前ではなく発売後、つまり客先に製品が行き渡った後に仕様の違いが発覚した場合の対応だ。

 こうしたケースでは返品および返金などの措置が取られるのが一般的だが、多くの場合、それらの費用負担の分担を巡って外注先とモメることになる。取引が浅く、かつ金額負担が大きいとなると、一切の負担を突っぱねてくる外注先も少なくないのが実情だ。

 それゆえ、こうした客を巻き込んだトラブル対応では、訴訟にまで発展した場合の負担と、自社で全てを負担した場合、及びユーザーに負担を負わせた場合、それぞれをシミュレートしながら、もっとも有利な手段を選択することになる。

 多くはメーカーが泥をかぶることになるが、会社の存続に関わるレベルの金銭的負担が発生するならば、それ以外の手段も検討せざるを得ない。

 そこで最終的にどのような手段を取るかは、まさにそのメーカーの考え方が如実に現れる部分であり、会社の体質そのものだ。

 一般的に、ビジネスで何らかのトラブルが発生した際は、過去に起こった同種のトラブルでの対応をベースに解決が図られることが多いので、そのメーカーが事業を継続する限り、同じことを二度三度とやらかす可能性は高い。利用者としては、製品以上にチェックしておくべきポイントと言える。

外注先はメーカーよりも立場が強い?

 ところで、こうしたOEMやODMまわりのトラブルが明るみに出ると、メディアの記事などでは「契約があるはずだから相手に責任を負わせろ」とか、「早急に代替品を用意させるべき」といった指摘がよくなされる。

 確かにビジネスの常識からするとその通りで、何ら間違っていないのだが、ではなぜそれが現実的にできないのか。その理由まで考察できている論評はごく少ないように感じられる。

 これは、ひとえに現場で先頭に立ったことがない肌感覚のなさによるもの、としか言いようがないわけだが、さらに詳しく見ていくと、これらの論調の多くに共通して欠落している事実があることに気付かされる。それは「OEMやODMのビジネスにおける外注先の立場は、実はメーカーよりも強い」という事実だ。

 「外注先」や「下請け先」といった表現のせいで誤解されやすいが、ことIT関連のOEMやODMのビジネスでは、これら外注先の立場は、ある意味で発注者であるメーカーよりも強い。外注先にメーカーが頭を下げるほど露骨に力関係が逆転しているわけではないが、少なくとも自動車産業のように、特定の1社に対する下請けとして、外注先が頭を下げてメーカーから仕事をもらう構図とは、明らかに異なる。

 その理由として、自社で工場を持たないファブレスメーカーにとってそう都合のよい外注先が、世の中にゴロゴロあるわけではないことが挙げられる。

 確かに海外、主にアジア圏にはIT関連の製造を請け負う業者が多数存在するが、品質が日本の水準に達していなかったり、必要なボリュームを生産できる設備がなかったり、資金繰りで問題があったり、あるいは日本語の分かる技術者がいなかったりと、ビジネス上パートナーとして支障なくやっていける業者はほんの一握りだ。

 何か問題が起こる度にその業者と取引を切ってしまっていると、次に引き受けてくれる業者がいなくなってしまう。

 そもそも、優秀な業者はライバルメーカーも目を付けており、囲い込んでいるのが普通なので、取引を持ちかけたからといって、すぐに対応してくれるわけではない。

 スケジュールがいっぱいだと断られるのがオチであり、下手に「こんな製品を生産することが可能か」と具体的な情報を提供しようものなら、それらの情報が丸ごとライバルメーカーに渡りかねない。買い手市場に見えて、実は売り手市場なのだ。

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