Appleは幅広いユーザーが製品を使えるよう、アクセシビリティー機能を各製品に搭載しています。「アクセシビリティー」とは、高齢者や障がいを持つ人々が、いかに支障なくサービスを利用できるかを表す言葉です。Apple StoreでもiPhoneやiPadの視覚サポート機能を中心に、使い方を紹介するセッションを定期的に行うなど、アクセシビリティーに関する取り組みを続けています。
その中でもApple銀座で取材した「視覚に障害がある方のためのApple Watchの基本」のセッションは、目からウロコの連続でした。目が見えない状態で、あんな小さな画面を操作するなんてiPhoneよりも大変なはず……。最初は疑心暗鬼でしたが、視覚障がいを持つApple Watchユーザーの話を聞くと、自分がいかにテクノロジーの常識に縛られていたかが分かったのです。
セッションでは、視覚障がいの男性が一利用者として、参加者にApple Watchの活用方法をレクチャー。「私は視野が5%しか見えない状態です。目が見えないのは怖いことですが、時計のおかげで安全に動けています」とApple Watchを紹介します。
時計がないと正確な時間が分からなくなる私たちと同様に、視覚障がい者も時間の感覚はずれていきます。セッションに登壇した男性は、これまでは時間を確認することすら大変で、時計を見るのを諦めていたと言います。
しかし、Apple Watchによってこの状況は一変しました。振動で時刻を知らせる「Tapticタイム」機能は、Apple Watchの画面を手で覆って、ディスプレイが暗くなった状態で画面を2度タップすると、バイブレーションで時刻を知ることができます。
長い振動は十の位、短い振動は一の位を表します。例えば、6時31分なら短い振動6回、長い振動3回、短い振動1回で時刻を伝えます。3度タップすると分だけがバイブされるので、頻繁に時間を確認する際もまどろっこしさを感じません。
Apple Watchは時計なのだから、時刻が分かって当然だと私たちは考えてしまいがち。しかし男性は「Apple Watchの時計機能が一番便利。おかげでタイムスケジュールを把握できるようになりました」と笑顔で語ります。
「Apple Watchで時間管理の質が飛躍的に上がりました。今までは出勤時間の1時間半前に到着するくらい余裕を持って家を出ていましたが、時刻を正確に把握できるようになってから30分前に来るようになりました。生活に余裕を持てるようになったのです」。
またApple Watchの「iPhoneを探す」機能は、視覚障がい者はちょっと違った使い方をしています。Apple WatchのコントロールセンターでiPhoneのボタンをタップすると、iPhoneから音が出て知らせてくれる機能です。
私はこの機能を部屋でiPhoneの置き場所が分からなくなったときによく活用しますが、視覚障がい者は、お風呂上がりを家族に伝えるときに使ったり、困ったときに支援者に知らせたりするナースコールのような使い方をする人もいるのだそうです。
男性は深呼吸を定期的に促す「呼吸」アプリも便利だと言います。「視覚障がい者は慌てやすく、情緒が不安定になりやすい。だから意識的に呼吸することで気持ちが安定します」と意外な理由を教えてくれました。
さらに「僕らの生命線」として紹介されたのが、緊急SOS機能。「もし転倒してiPhoneが手から離れてしまっても、手元で救急の連絡をかけられます」。iPhoneの「ヘルスケア」アプリのメディカルIDに緊急連絡先を追加しておけば、緊急通話が終わった段階で指定の緊急連絡先にテキストメッセージが送られるのも重要なポイントです。
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