iPhone 8は本当に保守的すぎるのか Apple Watch Series 3と使って得た結論本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/5 ページ)

» 2017年09月27日 14時30分 公開
[本田雅一ITmedia]

 2017年のiPhone……「iPhone 8」も、米カリフォルニア州クパチーノにおける発表会、それに22日の発売を経て、一通りのレビューが出尽くした感がある。

 商品そのものは完成度をさらに高めたiPhoneであり、そこに奇をてらった要素はない。事前に流出したiOS 11のゴールデンマスターを違法にリバースエンジニアリングした結果が、ニュースで流れてしまったこともあり、満を持した発表会が情報をどうつなぎ合わせるかの答え合わせとなった感もあった。

iphone 8 筆者が使っている「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」「Apple Watch Series 3」

 出そろったレビューの多くはカメラ画質に関しての絶賛がその基本にあり、ワイヤレス充電を採用するために背面をガラスに戻した全体の仕上げ・質感とともに、「過去最高のiPhoneである」というトーンが基本となっている。

 筆者もカメラに関しては大いにフィーチャーした記事を書いたが、当然、他のレビュアーと相談したわけではなく、誰もが分かりやすいiPhone 8の改善点として目立っていたというだけにすぎない。

 そんな中、友人が「携帯電話とモバイルPCの融合した製品をスマートフォンとするならば、その基本とする部分が大幅に改善する、例えば電波を捕まえる能力が2倍になるとか、バッテリー駆動時間が2倍になるなどの改良もないのに、補助的な機能であるカメラや製品の性能・機能に全く寄与しないガラスの背面仕上げにばかり訴求するAppleは本質を外しているのではないか」と発言するのを見た。

iphone 8 正面はTouch ID搭載ホームボタンを配置したおなじみのデザイン
iphone 8 背面をガラスに戻した全体の仕上げ・質感は高評価だが、本質ではないとの意見も……

 なるほどという面もないわけではない。この視点、議論のポイントはなかなか面白い。iPhoneは「おかず」とも言える通信機器やコンピュータとしての機能以外だけでなく、「主食」である基本機能についてもトップクラスだからだ。さらに、この視点そのものが今回Appleが発表した一連の商品……「Apple Watch Series 3」や「Apple TV 4K」へと広がる世界観をも含んでいる。

携帯電話としての基本機能は充実

 本題に入る前に申し上げておきたいのは、iPhoneシリーズは携帯電話端末として、常に最新の技術に対応しようと努力してきたことだ。以前はそうではない部分もあったが、少なくともここ数世代は究極マルチバンド機とも言える。

 思い起こせば10年前の初代iPhoneは、世の中が第3世代(3G)ネットワークに移行している中、EDGEという第2世代の技術を拡張したデータ通信方式にしか対応していなかった。その後、LTE時代に入ると年を追うごとにマルチバンド化を進め、ほぼグローバルのどこでもローミングに関する心配が必要ない端末になっている。

 2017年の注目は、北米で割り当てが進んでいるAWSバンドを拡張するBand 66(AWS-3)、中国最大の携帯電話事業者であるチャイナモバイルが展開するBand 34に対応したことと、日本および世界各国で対応の進むBand 42が日本向けiPhoneのみに追加されたことだ。

 Band 42は3.5GHz帯と高い周波数帯を使う(つまりカバー範囲は狭い)が、携帯電話事業3社にそれぞれ20MHz幅×2が割り当てられており、都市部などの利用可能範囲では回線パフォーマンスを大きく向上できる。日本向け端末でのみ対応しているのは、各社とも実効帯域拡大のためBand 42への投資を進めているからだ。Band 42の整備に関してはNTTドコモが先行している感はあるが、iPhone 8が対応したことで各社とも今後の投資が加速すると思われる。

iphone 8 iPhone 8(A1906)とiPhone 8 Plus(A1898)のワイヤレス通信機能

 パフォーマンス面では、単純な速度向上は半導体技術の上昇に伴う処理能力向上という点もさることながら、「スマートフォンの使われ方」を強く意識した改良が施されている点に着目したい。

 例によってAppleは「A11 Bionic」チップの細かな仕様やアーキテクチャを公開していないが、非対称型のマルチコアはパフォーマンス型コアが2個、高効率型コアが4個という構成で、とりわけ高効率型コアのパフォーマンス向上に力を入れたという。高効率型コアの適応範囲を広げることで、実用上の電力効率を高めるためと想像される。

 またPower VR系コアの設計を購入していたGPUだけでなく、写真や動画の処理を担うイメージシグナルプロセッサ(ISP)も自前設計となった。Appleの設計になったことで、どの程度内容が変化しているかは想像するしかないが、Appleは端末を使うほどに賢い動作をするための機械学習機能をiOSに盛り込み、そこでGPUを積極的に使っている。

 またISPも(おかずと言われればそれまでだが)、今回β版として「iPhone 8 Plus」に組み込まれたポートレートライティング機能に加え、被写体の背景をぼかすポートレートモードの動作精度向上などに使われている。

A11 「A11 Bionic」に搭載した4つの高効率型コアは最大70%、2つのパフォーマンス型コアは最大25%、3つのGPUは最大30%高速になったという(A10 Fusion比)。写真や動画の処理を担うイメージシグナルプロセッサ(ISP)も自前設計に

 バッテリーに関しては、Appleは以前も、そして他カテゴリーの製品でも、一定のバッテリー駆動時間を確保しながら、機能や機構デザインとのバランスを取る設計方針を貫いてきた。今回もバッテリー容量が微減しつつも、同等の駆動時間を実現しており、そうした意味では従来の方針を踏襲した形だ(「iPhone X」に関しては「iPhone 7 Plus」より1時間延びていると発表している)。

 この点は不満を持つものもいるだろうが、かといってフォームファクターを大幅に変えてバッテリーサイズを大きくすることを望まないユーザーが大半ではないだろうか。ここは推測になるが、AppleはiPhone 8以降の製品を無線給電規格「Qi(チー)」対応にするとともに、空港や駅、あるいはカフェなど人が集まる場所へのQiチャージャー配置を考えているのではないだろうか。

 Appleは複数デバイスの同時充電に対応するQiチャージャー「AirPower」を2018年に発売すると予告するとともに、Qiの規格拡張案を提出している。そうした準備を整えたうえ、ワイヤレス充電のインフラ立ち上げを推進することで、バッテリー駆動時間ニーズに対する回答としようとしているのかもしれない。

AirPower iPhone、 Apple Watch、AirPodsの新モデルを置くだけでまとめて充電できるQiチャージャーの「AirPower」。2018年発売の予定

 初代iPhoneの発売から10年以上が経過し、「iPhone」という成熟が進んだ製品カテゴリーの中で、しかも1年というタイムスパンでの改良という意味では、いわゆる「主食」部分もかなり充実させてきた。目立たない部分であり、製品インプレッションとしては最初に出てきにくい要素にも気配りの利いた設計になっていると思う。

 ただ、それだけで終わっているわけではない。

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