クラウドやスマートデバイスの活用で、医療分野の利便性向上と効率化を――。この夏、KDDIがこんな取り組みを開始した。サービスの第1弾として提供するのは、治療を行う上で重要な医用画像に、院内や外出先、自宅などからセキュアにアクセスできるようにするクラウド型サービス。米医用画像ソリューション大手のテラリコンとの協業で実現したという。
今回のソリューション開発を率いたKDDI ソリューション営業本部 副本部長の那谷雅敏氏によれば、日本の医療機関はさまざまな問題を抱えているという。人口の高齢化に伴う患者数の増加、医師不足が引き起こす過度な労働、IT化の進展に伴う管理面の負担増、災害時に備えたBCP対策などが医療機関を運営する上での負担となっており、解決策が求められている。
KDDIが病院のニーズをヒアリングしたところ、「院内だけでなく、外出先でも情報をしっかりと見極めたい」「データを外部のセキュアなサイトに保存したい」「サーバを含めた保守管理を任せたい」「運用コストを下げたい」といった声が挙がったと那谷氏。医療クラウドへの期待が高まっていることを受けてKDDIと米テラリコンが提供するのが、クラウド型リアルタイム3D医用画像ソリューションというわけだ。
病院で使われる医用画像はCTやMRIで撮影された2000枚もの二次元の断層画像で構成され、診断の際にはこれらを組み合わせて立体化している。病院では現状、画像を立体化するアプリをインストールしたサーバを院内に設置し、撮影した二次元画像をサーバに送って3D化した上で院内に配信しているという。
KDDIが提供するソリューションは、サーバをKDDIのクラウド基盤に載せ、ここに転送した断層画像をクラウド上で3D化して院内に配信するというものだ。断層画像を一体化するためのアプリケーションは米テラリコンが提供。大きな特徴は、クラウド上で断層画像の一体化処理を行う点で、これは国内初の取り組みになるという。
このソリューションを利用すれば、医療機関は院内にサーバを設置せずにすむため、大規模な初期投資の必要がなくなる。保守やメンテナンスもクラウド側で行うため、運用の手間も軽減されると那谷氏。院内からクラウド上のサーバにアクセスするための回線には、広帯域でセキュアな固定通信サービス「KDDI Wide Area Virtual Switch」を使っており、院内にサーバを置いているのとほぼ同等の操作性を実現したという。「アップロード時間は1500枚の画像の場合で約150秒。サーバ側では数秒から1分程度の処理時間で3D化され、院内の各端末から利用できるようになる」(同)。さらにこのネットワークはインターネットを介さない完全閉域のセキュアな形で提供され、安全性が確保されているのも特徴の1つだ。
KDDIではソリューションの発売前に、埼玉県の川口総合病院で実証実験を実施。セキュリティが確保されていることや、実利用に支障のないスピードでデータ転送ができているこが確認できたという。また、震災などの非常時でも医用画像を3D化できる点も病院側から高い評価を得たそうだ。
なお、立体化された医用画像はPCだけでなく、スマートデバイスからの閲覧にも対応するが、個人情報を扱うものであることからセキュリティの確保を重視するとしており、当面は非常時や災害時といった緊急用途で運用を考えているという。
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