小さなトラブルが大ピンチに、いまだ綱渡りを強いられる電力供給体制電力供給サービス

北海道と関西で今夏の節電要請期間が終わり、日々の気温も下がり続けていたが、連休明けの9月18日、北海道と東北では電力供給体制が危機に陥った。両社は休止中の発電所の緊急稼働や、他社からの融通で危機を乗り越えたが、今後も気温の推移次第では同様の事態が発生する可能性がある。

» 2012年09月25日 11時15分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

節電要請期間終了直後に……

 北海道と東北で電力供給体制が危機に陥った最大の理由は、先週の土曜日から続いていた気温の上昇だ。北海道では9月14日に節電要請期間が終了していたが、その翌日である15日から気温が上昇し、真夏日が続いた。

 17日の時点で北海道電力は18日の最大需要電力を、今夏最大を記録した8月22日(463万kW)をしのぐ480万kWになると予想(図1)。最大供給電力は502万kWとする予定だったが、最大需要電力が急増したため、このままでは需給率が最大で95.6%まで上昇してしまう。そこで、点検のため休止中だった苫小牧共同火力発電所3号機(最大出力は25万kW)を18日の10時から稼働させると決めた。

図1 9月18日〜21日の北海道電力の最大需要電力の実績値と最大供給電力の予定値。18日は需要に対してギリギリの電力しか供給できないと分かったが、火力発電所の緊急稼働などで532万kWまで引き上げた。19日以降は最大供給電力を多めに用意していたことが分かる

 さらに他事業者から電力を6万kW調達し、最大供給電力を532万kWまで引き上げ、当日の需給率を90.2%まで抑える見込みが立った。道内の事業者や住民には、節電を呼びかけるメッセージを出した。

 当日の最大需要電力は18時〜19時の483万kW。緊急対策がなければ需給率が96.2%まで上昇するところだったが、対策が効いて需給率は90.8%にとどまった。北海道電力は9月23(日)まで火力発電所の運転を続けた。

予想以上の気温上昇、そして発電所の緊急停止

 18日は東北電力も気温上昇をある程度予想していた。前週に出した「週間でんき予報」では、最大供給電力を1276万kWとしながら、最大需要電力は1210万kWと見ていた。需給率にすると94.8%。かなり高い値だが、9月14日にも需給率が94.3%まで上昇すると予報を出している。14日を何事もなく乗り切ったせいか、需給率が94.8%という予報になっても東北電力は問題ないと考えていたようだ。

 しかし18日になって、東北電力が予想していたよりも気温が上昇するということが分かった。最大需要電力を計算し直すと、1280万kW。当日の最大供給電力の予定値である1276万kWを上回ってしまう(図2)。

図1 9月18日〜21日の東北電力の最大需要電力の実績値と最大供給電力の予定値。18日は需要(1280万kWと予測)に対して供給電力が明らかに不足すると分かったが、続けて火力発電所が1基停止し、供給電力がさらに下がった

 追い打ちをかけるように午前9時32分、八戸火力発電所5号機(青森県八戸市、出力27.4万kW)がガスタービンの異常により停止してしまった。ただでさえ供給電力が足りないところに、予期せぬ大トラブルの発生だ。

 このままでは需要に供給が追い付かず、大停電を起こしてしまう。東北電力は東京電力から最大35万kW、関西電力から最大25万kWの融通を受けると決めた。これで、供給電力を最大60万kW上積みできる。

 さらに、2013年7月に新潟県と福島県を襲った豪雨の被害を受けて停止していた第二沼沢発電所(福島県大沼郡金山町)を13時〜18時の間の2〜3時間稼働させ、ピーク時の需要に応えられるように準備した。第二沼沢発電所は揚水発電所で、出力は46万kW。この結果、最大供給電力を1330万kWまで引き上げることができた。

 しかし最大需要電力の予想値は1280万kW。需給率は96.2%まで上がる。ほかの発電所にトラブルが発生したら、最悪の事態に陥る可能性もあった。

 結局、当日の最大需要電力は1278万kWに落ち着き、需給率は96.1%で何とか乗り切った。

涼しくなり始める今こそ危ない

 今夏、各電力会社は関西電力を除いて、原子力発電所を稼働できない状態で電力供給を強いられた。安定して大電力を出力し続ける原子力発電所を使えないため、各社は火力発電所、水力発電所、揚水発電所をフル稼働させて電力需要に応えた。

 しかし需要に応えるために、発電所の定期的な点検を延期し、稼働を続けていた例も少なくない。トラブルが発生して停止したという例も多い。残暑が和らぎ始めているが、発電所の点検を始める時期は慎重に決めるべきだ。多数の発電所が点検に入っているところに、突然の猛暑日や、発電所の故障という予期せぬ事態が襲いかかると、今回の北海道電力や東北電力のように、ギリギリの綱渡りを強いられることになるだろう。

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