第2回 快適で省エネにも向く節電対策として期待がかかるガス空調システム

省エネ性や環境性能をうたうGHP。ガスエンジンヒートポンプを利用したオフィスや商店などに向く空調システムだ。電気式空調と比較して、起動時間が短く、静かでエネルギー利用効率が高いというメリットがある。

» 2013年06月24日 13時00分 公開
[日本LPガス協会,スマートジャパン]

 ガスエンジンヒートポンプ式ガス空調(GHP)を導入した場合のメリットを連載第1回で紹介した。省エネ性や環境性能が高く、災害対策にも役立つということだ。GHPの導入メリットはそれだけではない。快適であることはもちろん、実際の利用シーンにおいても省エネルギーを実現しやすいことだ。第2回ではこのようなGHPの特徴について紹介していく。

快適で省エネに向く

(1)空調の起動が素早く、パワフル

 一般的に空調は、外気との温度差が大きいほどエネルギーを消費する。さらに冷房時より暖房時にエネルギーが必要とされる。このような空調の特性に合うのがGHPだ。GHPは、運転開始直後から発生するガスエンジンの熱エネルギーを利用できる。このため、寒い朝でもスピーディに室温を快適温度まで高めることができる。寒冷地は空調機器にとって厳しい動作環境だ。だが、GHPは寒冷地においても電気エアコンに比べて外気温の影響が少ない。除霜運転を行う必要もほとんどない。つまり、継続運転が可能だ。室内を迅速に暖めることができる。

(2)エンジンを使っていても静音性が高い

 GHPはエンジンへの負担が少ない高速スクロールコンプレッサや大型低騒音ファンを採用している。このため低燃費と静音性を実現している。GHPは電気エアコンと比べて同等以上の静かな運転が可能である(図1)。

図1 GHPと電気エアコンの運転音比較。静音モードの数値をかっこ弧内に示した。出典:日本LPガス協会

(3)インバーターを使って最適運転

 省エネを実現するには、必要に応じてガスエンジンの回転数をきめ細かく調節できる仕組みがあればよい。これがインバーター制御だ。

 エンジン回転数を室温にあわせて柔軟に最適制御するインバーター効果により、エネルギーロスが少なく省エネルギーな運転で、なおかつ快適な室内環境を保つことが可能になる。

 省エネ性をさらに高めたGHPもある。2011年に登場した「GHP XAIR(エグゼア)」だ。電気エアコンを含めたビル用マルチエアコンで最も高い省エネを達成した超高効率タイプである。熱交換フィンを増やし、エンジンの小型化・高効率化などを進めたことで、APF(通年エネルギー消費効率)の値が全ての機種で5.4以上、最大5.7を達成している。これにより、従来機に対し年間の一次エネルギー消費量を最大で約19%削減できる(図2)。

図2 電気エアコンとGHPの能力別APF値比較。出典:日本LPガス協会

COPやAFPという値は何を表すか

 空調機の性能を表す指標は複数ある。古くから使われてきたのが、成績係数(COP:Coefficient Of Performance)だ。消費電力1kW当たりの冷暖房能力を表している。COP値が大きいほど、空調に必要な消費エネルギーが小さくなる。つまり、運転費用を抑えることができる。

 COPは分かりやすい値だが、実使用状態を反映していないという批判があった。例えば、冷房時のCOPと暖房時のCOPは通常、同一の値にはならない。さらに、COPを計算する場合、定格出力の状態で、外気温度も変わらないという仮定が付く。だが、実使用状態では、定格出力かつ温度が一定ということはあり得ない。

 そこで、2009年には、通年エネルギー消費効率(APF:Annual Performance Factor)という新しい基準が業務用空調機へ全面的に導入されている。APFは1年を通じた空調能力を見る指標だ。ある運転条件のもとで、冷房と暖房を使ったとき、消費エネルギー1kW当たりの空調能力を表す。値が大きいほど空調性能が高いことを示す。

 なおGHPの入力エネルギーはガス、電気エアコンは電気であり、直接効率を比較できない。そこでAPF(EHP相当)という数値を計算する。具体的にはGHPの入力エネルギーであるガスを電力に換算し、EHP(電気モーターヒートポンプ)として算出した数値である。ここではガスから電力への換算式は9.760kJ/kWh(省エネ法)を使用した。


(4)さまざまな使用環境に向くGHP

 省エネ性や環境性能、快適性、省エネに加えて、それ以外の特徴を打ち出したGHPもある。最後に、どのような製品があるのか、紹介しよう。

  • 発電機搭載型

 GHPには発電機を搭載したものも登場している。稼働時の発電電力を室外機のファンやポンプに供給することにより、消費電力量を大幅に低減可能だ。同等クラスの電気エアコンとの比較では約100分の1まで削減することができる(図3)。

 最近では、停電時でも運転が可能な「完全電源自立型」の製品も登場している。

図3 電気エアコンとGHPの消費電力量比較。出典:日本LPガス協会
  • 寒冷地仕様

 GHPはエンジン廃熱の有効利用などにより稼働効率が外気温度に左右されにくいという特徴がある。マイナス20℃まで対応できる寒冷地仕様の製品もある。

  • 耐塩害仕様

 沿岸部など潮風の影響を受けやすい場所に室外ユニットを設置する場合には対策が必要だ。電気エアコンと同様の腐食防止対策として、ポリエステルやアクリル系素材で塗装を施した対塩害仕様のものもある。


 連載第1回と、今回の第2回で紹介したようにGHP導入のメリットは多数ある。2011年の東日本大震災以降、エネルギーの安定供給の問題、電力平準化の観点から、空調に対する顧客ニーズにこれまでの省エネ性や環境性だけではなく、さらに「節電」も加わっている。最近では、2000年前後に設置された製品の買い替えに加えて新規設置台数が伸びるなど、GHP自体の需要が増加している傾向がある。GHPのような快適性と節電・省エネ性を兼ね備えた空調商品は今後ますます注目されていくだろう。

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