国産の天然ガスとして有望な「メタンハイドレート」キーワード解説

エネルギー資源に乏しい日本にあって、「メタンハイドレート」に対する期待は極めて大きい。近海の広い範囲にわたって存在している可能性があり、エネルギー源の天然ガスを国内で調達できるようになるからだ。「燃える氷」とも呼ばれていて、低温・高圧の地下に分布するのが特徴である。

» 2014年01月10日 14時40分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 「メタンハイドレート(methane hydrate)」は、天然ガスの主成分でもあるメタンに水が結合したものである(図1)。ハイドレートは「水和物」を意味する。メタンと水の分子が結合して凍った状態になっている。解凍するとメタンガスと水に分解されて、火をつければ燃える。その特性から「燃える氷」と呼ばれている。

図1 メタンハイドレートの燃焼状態と分子構造。出典:JOGMEC

 メタンハイドレートを分解すると、約170倍の容量のメタンガスが発生する。大量に抽出することができれば、天然ガスの生産量を一挙に拡大できる期待がある。ただし低温で高圧の状態でなければ、安定した形で存在しない(図2)。北極と南極の地底や、水深500メートル以上の海底に埋まっている。

図2 メタンハイドレートの特性。出典:JOGMEC

 幸いなことに、日本の近海にはメタンハイドレートが広く分布していることがわかっている。経済産業省を中心に、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)などが10年以上にわたって調査を続けてきた。その方法は海中で音波を発生させて、戻ってきた音波によって海底の地層の状態を推定する。石油や天然ガスの探査にも使われている。

 メタンハイドレートが存在する場所には、この音波によって「BSR(海底疑似反射面)」と呼ぶ独特の反応が見られる。日本の近海でBSRを検出できた海域は12万平方キロメートルにも及ぶ(図3)。

図3 メタンハイドレートの存在可能性を示すBSRの分布状況。出典:経済産業省

 その中でも実際にメタンハイドレートの存在を確認できた海域が2カ所ある。1つは太平洋側で三重県の志摩半島沖、もう1つは日本海側で新潟県の上越沖から石川県の能登半島までの海域だ。このうち志摩半島沖の埋蔵量だけでも、日本の天然ガスの輸入量に換算して5年分以上になると推定されている。

 海底に存在するメタンハイドレートは、分布する地層によって2種類に分かれる。海底の表面に近い層にある「表層型」と、海底から300メートルくらい下の層に含まれる「砂層型」である(図4)。太平洋側は砂層型で、日本海側は表層型が多い。それぞれメタンハイドレートの状態が違うために、掘削方法を変えなくてはならない。

図4 海底に存在する2種類のメタンハイドレート(画像をクリックすると拡大)。出典:経済産業省

 現在のところ2種類のメタンハイドレートに対する掘削方法を確立できていない。政府は2018年度をめどに、掘削方法を含めて技術的な課題を解決する方針だ。2020年代の前半にはメタンハイドレートの商業生産を開始することが最終的な目標である。今後の5〜10年間の進展によって、日本のエネルギー戦略は大きく変わる。

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