本当に一体化する? 自宅と電気自動車和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(3)(3/3 ページ)

» 2014年07月31日 07時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

2つの新技術がV2Hを変えた

和田氏 世界初の技術として「シームレス充放電技術」や「自立運電時PV連携技術」をうたっている。ユーザーにとってどのような利点があるのか。

朝日氏 「シームレス充放電技術」の利点はこうだ。従来、EVから家庭に給電を開始しようとすると、電力供給停止時間(瞬断)が起こり、時計やDVDプレーヤーなどの機器がリセットしてしまうという課題があった。今回は、回路設計を工夫し、このような瞬断を防ぎながら、シームレスにEVと家との充電・放電を可能にできた(図6)。

 この機能には他にも効果がある。例えば大型の電気製品を使う家庭では、ブレーカーが飛ぶことを懸念して、契約アンペアを50Aや60Aなど大きくとることが多いだろう。もしEVからの給電で契約アンペアを超える分を賄えるのであれば、30Aや40Aなど、より小さな契約アンペアに切り替えることも可能になる。これは、家庭におけるピークカットにもつながるものと考えている。

 「自立運転時PV連携技術」も有用だ。停電の際、これまでは単独運転防止の観点から太陽光発電などの機器を通常通り動かすことはできなかった。新技術によってV2Hパワーコンディショナーが司令塔となり、太陽光発電用パワーコンディショナーを起動させて、停電が復帰したときと同じ状態を作る。こうして、太陽光発電から家庭へ通常通り給電でき、さらにはEVへの充電が可能になった。

 この効果は大きい。例え停電が数日間続いたとしても、太陽光発電から家に給電可能だ。従来の技術では、停電が始まったときに蓄えていた電力量分しかEVは走行できない。新技術を使うことで新たに充電して走行できるようになった。

図6 「シームレス充放電技術」と「自立運転時PV連携技術」 出典:三菱電機

認証制度が是非とも必要

和田氏 現在の商品は電力会社との個別協議が必要だ。これについてはどのように考えているのか。

朝日氏 確かに現在は各電力会社との個別協議を経る必要があり、現在、個別協議を行う電力会社を拡大しているところだ。だが、これは過渡期だからであり、最終的に認証制度が確立されれば、個別協議の必要はなくなる。

和田氏 SMART V2Hを設置するにはどの程度の期間が必要なのか。

朝日氏 大まかなスケジュールであれば、計画段階で0.5カ月、設置と個別協議に1〜3カ月、運転確認に1〜2カ月と考えている。早期に短縮できるように進めていきたい。

和田氏 電気自動車との整合性はどうか。どのような電気自動車でも接続できるのか。

天明氏 日産自動車「リーフ」の場合、初期のクルマでは一部ソフトウェアを改修する必要がある。車体番号「ZE0-」で始まる車両と、「AZE0-050001〜053467」は、日産自動車の販売店でソフトウェアを改修する。三菱自動車の「MiEV」シリーズも現在対応を検討いただいている。これから発売されるクルマについては、EVPOSSAが示すV2Hガイドラインに準じるため、問題ないと考えている。

和田氏 積水化学工業が発売したV to Heimのパワーコンディショナーと仕様上の違いはあるのか。

天明氏 今回、積水化学工業に採用いただいており、当社単独のものと全く同じ仕様である。

和田氏 モニター販売から一般販売への移行時期はいつなのか。

朝日氏 認証を得るための条件の1つは工場単位の認証だ。このため少し時間を要するのではと考えている。しかし、既にエネルギー関連の技術として太陽光発電、蓄電池の例もあり、認証制度そのものは過去の経験が生きる。今回当社はV2Hとして先陣を切った。今後はEVが家の中にまで入ってくるなど、クルマと家がますます密接な関係となってくるのではと期待している。

本格的V2Hが社会を変える

 東日本大震災の直後、ライフラインが早期に回復せず、あちこちで停電が続いたことから、大きな電気エネルギーを内蔵するEVを生かし、家庭に電気を供給する役割が期待された。三菱自動車がいち早く発売した可搬型の「MiEV power BOX」が1つの解だ。続いて日産自動車が発売した「LEAF to Home」はまさにV2Hの先駆けであった。しかし、いずれも系統への悪影響を避けるため、使い方が極めて限られていた。

 今回、住宅メーカーとEV用パワーコンディショナーを商品化するメーカーが、協力して本格的なV2H製品を市場に投入した意義は大きい。

  • (1)双方向のV2Hが実現

 従来のV2Hは「one way」でしか使用できず、使用時に切り替えが必要だった。今回の商品は太陽光発電とEV、系統をシームレスに切り替えることにより、EVとの間で双方向に電力を供給できるという特徴がある。動くエネルギー源として、一段とEVの使いやすさに磨きがかかった。

  • (2)個別協議から認証制度の確立へ

 今回は最初の事例ということもあり、法整備や認証制度確立に向けて、まだ準備期間が必要だ。導入時には電力会社との個別協議の時間を要する。太陽光発電や蓄電池と同様に認証制度の早期確立を望みたい。認証制度は、設置期間の短縮にもつながるはずだ。

  • (3)本格的なV2H時代の幕開け

 今回のシステムでは太陽光発電用とV2H用という2つのパワーコンディショナーが存在する。今後、蓄電池の設置も想定しながら、これら機能を統合・小型化していく動きが加速すると考えられる。V2Hに対応したEVが順次投入されることから、本格的なV2H時代の幕開けが近づいたといえる。

 近年、台風などの自然災害による停電も目立つ。エネルギーの有効活用という面のみならず、安全・安心のセキュリティ面からもV2Hが拡大していくのではないだろうか。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.