水からプラスチックを作る、「人工光合成」で化石燃料不要の化学品製造実現へ自然エネルギー(2/2 ページ)

» 2015年04月01日 11時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]
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世界最高クラスの太陽エネルギー効率を実現

 水分解光触媒における日本の研究開発の歴史は古く、1970〜1980年代には、酸化チタンに紫外光を照射することで水分解が可能であることを世界で初めて発見(本多・藤嶋効果)。その後2000年代に入り可視光吸収型光触媒が発見され、多くの研究開発が進むようになった。2011年には豊田中央研究所が、二酸化炭素と水からHCOOH(ギ酸)を合成することに成功した(関連記事:空気と水と太陽光だけで燃料を作る、豊田中央研が人工光合成を実現)他、2012〜2013年にはパナソニックがギ酸やメタンを生成するシステムを公開している。

 今回のプロジェクトの中間発表では、これまでの太陽エネルギー変換効率(生まれた水素のエネルギー量/太陽光のエネルギー量)で世界最高クラスとなる、最高値2.2%、1時間平均値で1.95%を達成した。プロジェクトの中間評価の目標としては2014年度末で変換効率1%という目標だったため、この目標を前倒しで達成したことになる。

 同プロジェクトでは、触媒材料の開発や検討、水素発生用の光触媒シートと酸素発生用の光触媒シートの配置方法などの研究テーマで研究・開発を進めているが、今回世界最高クラスの性能を発揮したのは、酸素発生用触媒にBiVO4、水素発生用触媒にCu(In,Ga)Se2を採用し、これらをタンデム配置したものとなる。

photo タンデム方式での配置の概念図(左図)と開発された光触媒 ※出典:NEDO

 現状の試験結果では初期値は2%を越えているものの徐々に効率が低下する傾向が見られたというが「この問題点については既に解決法が見えている。水素側の光触媒に正孔が発生し酸化が進み触媒としての機能が低下していたことが分かった。酸化物を組み合わせた材料組成に変更することで安定させることができる」と堂免氏は述べている。

photophoto 今回開発した光触媒シート(左)と人工光合成を行うモジュール(右)(クリックで拡大)

 今後はさらに光触媒を粉末化し、酸素用と水素用を混合してシート化することなども検討。「粉末化することで表面積が増えるために反応を加速させることができ高効率化を実現できる。しかし、水に混ぜる形では撹拌動力が必要となるので、粉末をシート化することを検討している。これにより高効率化と大面積化が実現できる」と瀬戸山氏は利点を語る。一方で、この粉末シート型の課題となるのが安全性の問題だ。水素と酸素が同時に発生するので、爆発する可能性があり、この点については「分離膜なども含めて、方法を検討する必要がある」と瀬戸山氏は述べている。

最終目標は化学品製造工程での利用

 今後は、開発した材料を含めたさまざまな光触媒材料系を対象に、材料の組成の最適化、低欠陥な結晶が得られる合成方法の開発および化学反応を活性化する材料表面の最適化などを進行。2021年度(2022年3月期)末までに太陽エネルギー変換効率10%の達成を目指すという。

 さらに、光触媒を組み込んだ水素/酸素製造用の光触媒モジュールの開発を進め、プロジェクト全体として、同時に開発している分離膜技術および合成触媒技術を組み合わせることにより、新たな基幹化学品製造基盤技術の確立を目指す。

 瀬戸山氏は「ゼロエミッションが求められる中で、人工光合成を活用することで化学品製造業でも二酸化炭素を排出から吸収に変えられる可能性が生まれる。太陽エネルギーを活用するため、赤道直下などで利用することが望ましく将来的にはサンベルト帯での大規模展開を目標としている。ただその前段階としてソーラー水素プラントでの活用などがステップとなると考えている。太陽エネルギー効率10%を実現できれば、2万ヘクタールのソーラー水素プラントで、日本国内の水素ステーションの20〜36%相当の水素を供給することが可能となる」と語っている。

photo 人工光合成プロジェクト実用化へのロードマップ(クリックで拡大)※出典:NEDO

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