電気の埋蔵金「需給調整技術」、導入のカギは“レジ係”にありエネルギー市場最前線(2/5 ページ)

» 2016年05月19日 09時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

食品スーパーの年間電気料金を3%以上削減

 食品スーパーなどの商業施設では、デマンドレスポンスや省エネなどを行うために、店舗環境などが悪化しては本末転倒である。さらにスーパーマーケットなどは、1店舗当たりの投資能力は低く、人手も足りない状況であるため、できる限り現場へのコストおよび手間の負担が小さいシステムを実現しなければならない。

 京セラが実証したファストデマンドレスポンスは、こうしたニーズに応えることを考えて開発。現場での機器の追加設置や負担をできる限り少なくし、負担の大きな機能はクラウド側に設置する構成とした(図1)。

photo 図1 京セラの機器自動制御システムの構成(クリックで拡大)出典:京セラ

 スーパーマーケットなどでは、冷ケースで使用する電力が約半数を占めており、この冷ケースから漏れる冷気などを使って店舗の温度管理をする場合が多い。ただ、熱変換効率については空調の方が、冷ケースよりも優れており、実際には店舗全てを冷ケースで冷やすよりも空調で補助した方が、全体の電力使用量を下げられるという状況がある。京セラでは、これらを背景に、空調の自動制御により冷ケースの電力を削減することで省エネ化と自動デマンドレスポンスを実現することを目指した。

 これらの結果、実証を行った食品スーパー店舗では、省エネについては年間電気料金を107万円(3.3%)削減することに成功した他、年間CO2排出量31トン(3.4%)を削減できたという。さらにピーク電力を下げられたことで、契約電力を5kW分下げられ、収益性の改善を実現できたとしている。

天気予報通りの温度でなければ削減成功は難しい

 ネガワット取引実証に向けた自動デマンドレスポンスの技術実証については、「ディスパッチ制御」という方式を取った。先述した通り、食品スーパーでは空調を制御する場合、1店舗で1時間通して空調を止めると温度が上昇し、冷ケース側が自動で運転能力を強めるので、最終的に使用する電力が上がるという状況になる。これではデマンドレスポンスに逆行することになる。そこで、京セラでは店舗当たりの温度上昇を抑制しながら、使用電力を削減するために、求められる削減量に応じて、30分ごとに店舗を組み合わせて、空調使用量を下げるという仕組みを検討した。これにより、店舗環境を維持したまま、自動デマンドレスポンスに対応することを目指した(図2)。

photo 図2 10分前予告デマンドレスポンスのディスパッチ制御(クリックで拡大)出典:京セラ

 実証では、2015年8月〜2016年1月にかけて約20回のデマンドレスポンスに参加。2015年8月の4日間においては、店内温度上昇を1度未満に抑制しながら一定レベルの削減電力を確保することに成功した。一方で削減成功率については、90%を基準としていたため、成功率は50%となった。これは8月後半の気温が事前の月間予想よりも大幅に低く、空調制御による電力抑制幅が限定されたからだという(図3、図4)。

photophoto 図3(左) 4店舗合計の自動デマンドレスポンスの実証結果、図4(右)は削減性効率(クリックで拡大)出典:京セラ

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