EV普及の起爆剤、性能5倍のブレークスルー蓄電池が試作段階へ電気自動車(1/4 ページ)

NEDOは2016年度からリチウムイオン電池に代わる革新型蓄電池の開発に向けた新プロジェクトに着手する2030年にガソリン並みの走行性能を実現する普及価格帯電気自動車の実現を目標に、2020年度中までに容量5Ah級の新型蓄電池の試作と検証を行う計画だ。

» 2016年05月19日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 環境負荷の低い自動車として普及が期待される電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)。しかし、現在の主流であるガソリン車と比較した場合、さらなる普及に向けては利便性などの点に課題が残る。ユーザー側の利便性を高めるためには、充電インフラの整備はもちろんのこと、搭載する蓄電池の性能向上による航続距離の拡大が必要だ。

 こうしたEVやPHEVの航続距離拡大の実現に向け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のもとで実施されたのが「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」(通称:RISING)だ。EVやPHEVの航続距離を“ガソリン車並み”に引き上げるべく、2030年に普及価格帯のEVなどに搭載できる高性能な次世代蓄電池の開発を目指す産学連携のプロジェクトである(図1)。

図1 RISINGにおける新型蓄電池の開発ロードマップ 出典:NEDO

 RISINGは2009年度からスタートした第1期が2015年度で終了した。2016年度からは第2期に相当する「新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」(RISINGII)が2016〜2020年度の5年間のプロジェクトとしてスタートする。NEDOは2016年5月18日に会見を開き、第1期の成果と、第2期のプロジェクト内容について説明を行った。

限界が見え始めたリチウムイオン電池

 RISINGで開発を目指す「革新型蓄電池」とは、現在の主流であるリチウムイオン電池(以下、LIB)の性能を超える新型蓄電池を意味している。現在、LIBのさらなる性能向上に向けた研究も進められている。しかし、近年の研究によって、実際の自動車に搭載できるLIBのエネルギー密度の限界は300Wh/kg(ワット時/キログラム)前後であることが分かってきた。このエネルギー密度ではEVでガソリン車並の性能を実現することは難しいため、LIBの限界性能を超える新型蓄電池の開発が必要になる。

NEDO理事長の古川一夫氏

 RISINGで目指すのは、現在利用されている車載用LIB性能の5倍に相当する500Wh/kgのエネルギー密度を持った蓄電池の開発だ。車載用だけでなく、さまざまな産業で高性能な蓄電池のニーズが高まっている背景もあり、こうした次世代蓄電池の研究開発は世界各国で活発に進んでいる。

 NEDOの理事長を務める古川一夫氏は「運輸部門のCO2排出量削減に向けて、EVなどに使用する蓄電池の高性能化は必須。これまで日本は蓄電池分野の技術で世界をリードしてきたが、グーロバルに研究開発競争が加速する中で、そうともいえなくなってきたというのが現状。そこで日本の中で産学連携の体制を構築し、LIBの5倍の性能を持つ新型蓄電池の基礎技術を開発しようという狙いでスタートしたのがRISINGである。こうした高性能な新型蓄電池を世界に先駆けて開発することで、日本の産業競争力の強化につなげていきたいという狙いもある」と述べる。

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