改革は素早く、切り替えは“のんびり”ーーオーストリアの電力自由化電力自由化、先進国はこう動いた(4)(5/5 ページ)

» 2016年11月08日 07時00分 公開
[グザビエ・ピノン/セレクトラスマートジャパン]
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オーストリア市場、今後の展望は

 2016年、オーストリアは電力完全自由化から15周年を迎えた。2014年、15万9747件の一般家庭がエネルギー会社の切り替えを行った。今までのところ、140以上の電力小売り会社が、40社のガス小売り会社が存在している。このうち、オーストリア全土に電気料金の提供をしているのは40社ほどである。

 最近の数カ月では、国際的なエネルギー企業がオーストリア市場に大きな関心を寄せている。特に、ドイツのいくつかのエネルギー会社はそのサービスエリアをオーストリアにまで伸ばしている。このように国内での競争がし烈になってきたことを受けて、昔ながらの地方系電力会社も電気料金を5〜8%を値下げしている。かつての地域密着型の電力会社はこのトレンドに消極的なものの、Eコントロールによる不断の努力とあいまって、市場原理の通りオーストリアのエネルギー市場にも活発な自由競争が起こると考えられる。言うまでもなく15年経っても切り替え率が低いままだったことを考えれば決して容易ではないことは確かであるが。

 エネルギーの価格が下がっている一方、送電料は継続的に増えているオーストリア。またエネルギーの消費量も増加傾向にあることから、送電のニーズは高まり、結果規模の差こそあれ混乱が起こることも十分考えらる。今後送電会社が、ニーズに対応するべく十分に必要な投資が行えるような環境作りも必要になる。もちろんこのためにはオーストリアのエネルギー市場を管理するEコントロールのリーダシップが問われるところだ。

 加えて、再生可能エネルギー促進税(正式名称:Ökotrompauschale)も年々上がり続けている。ちなみにオーストリアでは現在95%の電力会社がグリーンエネルギー由来の電気を販売している。オーストリアは常に、原子力発電に関しては懐疑的な態度をとっている。事実、1978年には国民投票によりすでに完成していたツヴェンテンドルフ原子力発電所の使用開始が差し止められた。上記のように送電料の上昇、再生可能エネルギー促進税の引き上げなどは各家庭の電気料金を増加に貢献こそすれ、決して負担を軽減してくれる要素にはなり得ない。このような現状にオーストリア人が気づき、積極的に電気料金を比較電気料金やエネルギーに関してより興味・関心を持つことが必要になると思われる。

 もちろん、オーストリアでもセレクトラ・オーストリアに代表されるような電気料金比較サイトも存在しているが、その存在感はまだ薄い。オーストリアにおける電力自由化において現在欠けているものといえば、オーストリア国民に対する「再教育」であるといえる。のんびり屋のオーストリア人を動かすためには、ただ単純にエネルギー会社が変更できると伝えるだけでなく、会社を変更することによってどのようなメリットがあるのか、さらには送電料が増えていることや、再生可能エネルギー促進税のことなど、エネルギーに関する全体的なリテラシーを高めていくことが必要だと考えられる。

連載「電力自由化、先行国はこう動いた」の目次

筆者プロフィル

グザビエ・ピノン(Xavier Pinon) セレクトラ(selectra)共同創業者・代表

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 パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。戦略コンサルタント業務に従事したのち、在学中に立ち上げた電気・ガス料金比較サービス会社セレクトラの業務に本格的に携わり、同社をヨーロッパ最大手に成長させる。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本(セレクトラ・ジャパン:http://selectra.jp/)でのサービスを開始。


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