明確な目的意識を持って生まれてくる赤ちゃんはいないクリエイティブ・チョイス

人間は生まれつき目的を持って生まれてくるわけではありません。「人生の目的を明確に定めてからでないと、創造的な選択ができない」と思い込んでいませんか?

» 2009年04月28日 12時40分 公開
[堀内浩二,Business Media 誠]

連載「クリエイティブ・チョイス」について

 問題を「イエスかノーか」に絞り込んでしまってませんか?――。新連載「クリエイティブ・チョイス」は、選択肢以外の「第三の解」を創り出し、仕事や人生の選択において、満足度を高めることを考えます。4月23日発売の書籍『クリエイティブ・チョイス』から抜粋したもので、今回は第1章からです。


 「目的から考え下ろせば、選択肢は広がる」ことがたしかだとしても、そうはっきりと目的を決められない場合もあります。

 仕事上の選択は、まだ目的を定義しやすいといえます。一つひとつの仕事には目的があり、それは組織の大きな目的(経営理念)を支えるものです。

 組織の経営理念などふだんはあまり意識しないかもしれません。しかし組織は、企業であれ自治体であれ、目的を持って設立されるものです。企業であれば、経営理念を商品(モノやサービス)という具体的な形で世に問うています。商品提供のコストを上回る売上が得られていることが、存在意義を認められている証です。

 難しいのは、人生の選択です。なぜなら、人間は生まれつき目的を持って生まれてくるわけではないからです。こう書くといかにも空しい感じがしますが、人生の目的を自分で決めてよいというのは素晴らしいことです。例えば、あなたが生まれたとたんにどこかの社長がやって来て、新生児のあなたをのぞき込んでこういってきたとしたら、うれしいでしょうか?

 「おめでとう! 君の人生の目的は、我が社の売上に貢献することだ。よろしく頼むよ」

 一方でわれわれも、あらかじめ明確な目的を持って生まれてくるわけではありません。例えば、生まれるやいなや、こう決めてしまう赤ちゃんがいるでしょうか。

 「よし、僕の人生の残り時間は『ものづくりを通じてこの国を豊かにすること』に捧げよう」

 われわれは、人生の目的を自分で決められる、限りない自由を持って生まれてきます(筆者注)。決めた目的を変える自由も目的を持たない自由も、持っています。しかしこの自由がわれわれの選択を難しくもします。

筆者注:王様や世襲制の職業(歌舞伎役者など)は、あるいは身分制度がある国では、どうなんだ? と思われるかもしれません。それでも人間は自分の目的を定めることができると考えたいのですが、それを論じる紙面がないので、あくまでも本連載の読者(現代の日本の一般消費者)を想定しているとお考えください。

 目的をはっきりと定めることで選択肢を広げるアプローチは、人生の選択の場合「正しいが、難しい」のです。「目的から考え下ろせば、選択肢は広がる」とはいっても、人生の目的を前述したB社のOAカバン事業のようにどんどんさかのぼっていける人はまずいないでしょう。

 人生の目的を明確に定めてからでないと創造的な選択ができない、と考えてしまうと、足がすくんでしまいます。しかし、心配は無用です。第3章で述べるように、実際に選択肢を試してみることで人は目的を知るという側面があります。第4章で例を挙げるとおり、目的を明確に描ききってから決意する人のほうがまれだといっていいと思います。

星の航海士が教えてくれたこと

 海図もコンパスもない時代、カヌーを導いていくポリネシアの航海士たちは、自然界のありとあらゆるものから情報を得て、それをもとに進むべき進路を定めていました。とくに、闇におおわれて情報が少ない夜は、星が大きな頼りです。航海士たちは星を知りつくしていました。彼らが「星の航海士」と呼ばれるゆえんです。

ナイノア・トンプソン、山内美郷著『ホクレア号が行く―地球の希望のメッセージ』ブロンズ新社、2004年

 太平洋の真ん中に、現代もなお、この航海術を伝承している孤島があります。サタワル島というその小さな島に住む人びとの航海術が、ドキュメンタリー番組として紹介されたことがありました(「地球に乾杯 海の民 風と星の大航海 〜ミクロネシア・サタワル島〜」NHKアーカイブス、2003年)

 特別な食料を得るために、彼らは漁場である隣の島に帆付きのカヌーで出かけます。隣の島とはいえ、かなり遠い。夜を徹してカヌーを走らせなければなりません。

 日が落ちて、海上には闇が訪れます。夜の海を風に運ばれていく、手作りの小さなカヌー。しかし、北極星を見つめる船長の顔には、みじんの不安も浮かんでいません。彼は重要な目印となる星の位置を、不動の星である北極星からの相対的な角度によって記憶しています。今は見えなくても、朝になれば水平線の向こうに島が現れることを知っているのです。

 船長の横顔を見ながら、大いに感じ入るものがありました。人生は実に海図もコンパスもない夜の航海であって、自分なりの「北極星」に向けて「まだ見ぬ島」を思い描いて進んでいかないと、結局はどこにも行き着かない。そう思いました。

 船長は目的地にたどり着くために2つの目安を持っていました。1つは「北極星」を基準とした方向感。もう1つは、ゴールである「まだ見ぬ島」のイメージです。この2つが、まさに本連載で論じようとしている目的の2つの要素にあたります。1つずつ見ていきましょう。

今日のクリエイティブ・チョイス「まとめ」

 目的から考え下ろして選択肢を広げるアプローチは、仕事の場合はともかく、人生の選択の場合は難しいものです。そこで、「星の航海士」に学びましょう(次回に続く)。

著者紹介:堀内浩二(ほりうち・こうじ)

株式会社アーキット代表。「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。工学修士(早稲田大学理工学研究科)。著書に『「リスト化」仕事術』『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)がある。グロービス経営大学院客員准教授などを兼任。


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