「新・ぶら下がり社員」を支配する3つの“あきらめ”「新・ぶら下がり社員」症候群

昇進・昇給という目的・目標を企業が与えられなくなった今、「新・ぶら下がり社員」はどこを目指せばいいのか分からなくなってしまっている。彼らは何をあきらめているのか。「自分」「組織」そして「未来」である。これらを詳しく説明しよう。

» 2011年01月20日 11時30分 公開
[吉田実Business Media 誠]

新・ぶら下がり社員とは

会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員のことを、本連載では「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。


 新・ぶら下がり社員はなぜ頑張れないのか。

 その答えは、「あきらめ感」に支配されているからだろう。

 組織にいれば必ずしもやりたい仕事をできるわけではないし、自分より能力のない人が先に昇進するなど、理不尽な思いをすることも多々ある。それは昔から変わらないが、昔の社員はグチを言いつつも、その先に昇進・昇給という目的・目標があったから乗り越えられた。その目的・目標を企業が与えられなくなった今、どこを目指せばいいのか分からなくなってしまったのである。

 自分をあきらめ、組織をあきらめ、未来をあきらめる。大きく分けてこの3つのあきらめ感が新・ぶら下がり社員を支配している。1つの要素だけのケースもあれば、3つすべてを抱え持つ人もいる。

 どのようなあきらめ感なのか、詳しく説明しよう。

1.自分へのあきらめ

 高みを目指さない、面倒な仕事はしたくない、転職もしたくないと、保守的を通り越して思考が固定化してしまっている。頑張ったところでたかが知れていると、行き止まり感に支配されているのである。

 このあきらめ感があると、自分に対する評価が低くなる。ことあるごとに「それは自分には無理」「今のままで満足」と否定や現状維持を望む言葉ばかりを吐く。過去の成功体験に目をそむけ、失敗体験ばかりにフォーカスする傾向もある。今の自分に嫌気が差し、一歩踏み出そうとしても、「いや、ちょっと待て」と過去の失敗を掘り起こし、自分にブレーキをかけてしまうのである。

 やらないことを正当化するために、常に言い訳ばかりを考えている。何か行動を起こすときに事前にリスクを洗い出し、対処法を考えておくのは必要である。だが、それは行動をするという前提での話である。自分をあきらめているタイプは、リスクを言い訳にして行動を起こさないまま終わってしまう。そんな自分にますます嫌気が差し、くすぶっていくのである。

2.組織へのあきらめ

 自分の所属する会社や部署に対する失望から生まれるあきらめ感である。

 これは長年かけて組織に対する不信感や不満が蓄積した結果、生まれる感情である。以前は組織の体質や構造を変えたいと思い、上司に問題提起したり能動的に働きかけていたが、何も変わらない現状に失望し、徐々に希望や期待を失っていった人も多い。もしくは、入社したころから、上司に会社やトップに関するグチを聞かされ、組織に対するあきらめ感を刷り込まれた可能性も高い。いくら頑張っても認めてもらえないという失望も原因の1つだろう。

 このあきらめ感に侵されたら、「どうせあの上司(社長)がいる限り、うちの会社は変わらない」「どうせ頑張っても給料は上がらない」と何かのせいにして逃げる傾向がある。売り上げが悪いのは景気のせい、成果を上げられないのは忙しすぎるから、うちの上司にそんな提案をしても認めてもらえない、と原因をほかのものになすりつけ、自分の問題点に意識を向けようとしない。

 裏を返せば、組織にべったりと依存しているあらわれでもある。ポストも給料も自分の欲しいものはすべて組織が与えてくれるものだと思い、それが無理だと分かったら失望して何もしなくなる。組織に対する期待感が高すぎるのである。 

3.未来へのあきらめ

 正直な話、これだけ多くの30歳前後の若者が未来に対して絶望しているのは、異常事態だと思う。内戦や独裁者に悩まされている国の若者なら分かるが、少なくとも日本は平和で豊かな先進国である。

 確かに不況が好転する兆しは見られないし、少子高齢化の影響で将来は年金をもらえるかどうかも分からない。国の借金は908兆円(2010年9月末)、生活保護受給者は193万人を突破(2010年8月時)などと、暗い話題ばかりが耳に入る。

 明るい材料が少ないのは事実だが、それなら現状を変えるべく世の中に働きかけるという手段もあるだろう。そのパワーすら湧いてこないほど未来に絶望しているのである。

 未来に絶望するのは、人生の目標や夢を持てないからである。

 夢というと青臭く聞こえるが、子どものころに思い描くような非現実的な夢ではなく、この会社で、この現実社会で、そして自分の人生において何を成し遂げたいか、どう生きたいのかという指針が必要なのである。何の指針もないまま生きていれば人生のターニングポイントに差し掛かると行き詰まり、閉塞感を抱くようになる。

 「自分が何をしたいのか分からない」「夢なんて持てない」などと、投げやりな言葉ばかりを漏らす。数年前まで自分探しがはやったが、未来へのあきらめ感が強いと、自ら夢や目標を探そうという気力すら湧かない。ただ流されるように今を生きているのである。

関連キーワード

上司 | 目標 | 人生 | 原因 | 失敗 | 昇進 | 給料


集中連載『「新・ぶら下がり社員」症候群』について

『「新・ぶら下がり社員」症候群』 『「新・ぶら下がり社員」症候群』(吉田実・著、東洋経済新報社・1月末刊、本体1575円)

 辞めません。でも、頑張りません。会社を辞める気はない。でも、会社のために貢献するつもりもない。そんな30歳前後の社員が増えている。彼らのことを「新・ぶらさがり社員」と呼ぶ。

 新・ぶらさがり社員は目的を持たない。目的がないゆえに、会社では時間を「潰す」ことに明け暮れ、常に70%の力で仕事に取り組む。本書では、彼らのマインド低下を表すデータを豊富に紹介している。その一部を紹介しよう。

 「周囲の人に主体的に関われている」(社会人1〜3年目:8.4%、社会人7〜9年目:4.5%)、「重要な業務を担っていると思う」(社会人1〜3年目:10.3%、社会人7〜9年目:8.4%)、「仕事で自分らしさを発揮できている」(社会人1〜3年目:9.7%、社会人7〜9年目:5.8%)。

 新人・若手よりも、会社の中で存在意義を感じられないのは、いったいなぜなのだろうか?

 本書では、企業研修の講師として6000人以上の人材育成を手がけてきた筆者が新・ぶらさがり社員の実態に迫るとともに、30歳社員の「目の色」を変えてやる気にさせる方法を詳しく解説する。


目次

  • 第1章 急増する「新・ぶら下がり社員」
  • 第2章 なぜ若者は「頑張れない」のか?
  • 第3章 新・ぶら下がり社員の「目の色」を変える処方箋
  • 第4章 新・ぶら下がり社員を増やすひと言、減らすひと言

著者プロフィール:吉田実(よしだ・みのる)

株式会社シェイク代表取締役社長。大阪大学基礎工学部卒業後、住友商事株式会社に入社。通信・放送局向けコンサルティング、設備機器の輸入販売を担当。新事業の立ち上げなどにもかかわる。2003年、創業者森田英一の想いに共感し、株式会社シェイクに入社。営業統括責任者として、大手企業を中心に営業を展開する。2009年9月より現職。

現在は、代表取締役として経営に携わるとともに、新入社員からマネジャー育成プログラムまで、ファシリテーターとして幅広く活躍する。ファシリテートは年間100回を数え、育成に携わった人数は6000人に上る


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