1億総情報発信のSNS時代がもたらした「炎上の日常化」と付き合う方法個人サイト管理人の「目」(3/3 ページ)

» 2013年01月10日 10時00分 公開
[村上万純,Business Media 誠]
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炎上してしまったら? ネットと距離を

 炎上はいつ、どこで起きるか分からない。気をつけてネットを利用していたとしても、運悪く自分自身が火種になってしまうこともある。しかも、火を消すための直接の術はこれといって存在しない。長年ネット社会を生きてきた4人でさえも、ネットでの失敗経験は少なくないという。彼らは炎上や嫌がらせに、どのように対応してきたのだろうか。

松永 実際に私が自身への誹謗中傷やブログでの炎上にちゃんと対処できているかと言うと、できていないんじゃないかなと思います。ただ、うまく対処できなくとも、普段ブログやTwitterで私を応援してくれる人たちは、私への誹謗中傷を見つけても気にしないでいてくれるので、リテラシーある冷静な姿勢に救われていますね。

 しかも彼らはちゃんと内容を理解した上で、揚げ足取りではない形で私の意見に鋭く異を唱えることもある。盲目的に支持してくれる「信者」などではないんです。そういう人を増やすためには、普段からネットで誠実にやり取りしたり、ブログに自分の意見を蓄積したりして信頼を積み重ねていくしかない。直接的な対処法ではありませんが、できることはそれくらいかもしれません。

UK バッシングを受け続けると、段々麻痺してくるところはありますね。2004年に初めて「虚構新聞」を作った時に、記事が2ちゃんねるに載り、ひどいコメントをいろいろ書かれて炎上してしまったことがあったんですが、今なら軽く受け流せる部分もあると思います。

 僕はサイトで時事ネタや有名人の風刺記事を書いているため、バッシングも少なくないですね。批判や非難を浴びると、ついカッとなり反論したくなってしまいますが、それがさらなる炎上を巻き起こすことも多い。気持ちをグッと堪えることも重要です。

画像 さらしる氏に取材場所として指定された秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」。秋葉原には毎週顔を出すと言う

さらしる 私は炎上経験もありますし、そのなかで殺害予告をされたことさえあります。炎上って、アンチと呼ばれる嫌がらせをするユーザーたちが、意図的に私に悪いイメージを植え付けるような事象だけを切り貼りしてまとめて、ネットに残していくんですよね。

 もし炎上してしまった時には、自分を客観的に見つめるといいですよ。リアルの自分が叩かれているのではなく、あくまでネットの中の自分が叩かれているだけだと割り切るんです。例えば「死ね」などの嫌なメッセージをたくさん送られると、大変心に堪えると思うのですが、「これは現実の自分とは関係ないこと」と割り切れば、落ち着いていられるようになります。

 あとは何もしないでネットと距離を置くことが、意外にも一番いい対処法になったりします。ずっとネットを見ていると、秒単位で多くの情報が流れてくるし、自分へのバッシングも含まれていたりする。だからネットのことはいったん忘れ、ふらっと外に出てリフレッシュしたりすると、気持ち穏やかに、疲れないでいられますね。


 さらしる氏と同様、まなめ氏も「自分宛てに送られてくるネガティブなコメントはあまり気にしないようにしています。(気にしだしたら)きりがないので」と語っており、炎上した時にはある種の割り切りを心がけていた。あまり自分への非難に対して神経質にならず、現実から1歩下がって俯瞰的に捉える姿勢が大事なようだ。

炎上頻発のSNS時代、求められるのはネットの“教科書”

 これまで炎上が起こる背景や、その対策について話を聞いてきたが、炎上が日常的に起こるSNS時代のネットは、これからどんな方向へ向かうのだろうか。

さらしる ネットのやり方なんて誰も教えてくれませんから、実際に自分の目で見て学んでいくしかないんですよ。昔は「半年ROMれ(ここの「ROM」はPCの読み出し専用記憶装置を指す「Read Only Memory」をもじった、書き込みせずに閲覧のみするユーザー「Read Only Member」を指す造語)」という言葉があって、2ちゃんねるなどの掲示板にやってきたネット初心者に対し、「書き込む前にまずは勉強しろ」というニュアンスで、ガンガン言われていたんです。

 でも今は、まさに半年ROMっていない、ネットの初心者がうかつな投稿をして、炎上していますよね。つまりネットに書き込むのって難易度も危険性も高いことなので、昔「半年ROMれ」と言われていたように、初心者はネットがどういうところなのかまず観察しているべきなんです。

 ネットユーザーは今後どんどん増えていくでしょうし、それに伴い、炎上して泣きを見る人が増える可能性が十分にあります。あらかじめネットに精通するユーザーが書いた“ネットの教科書”的なものを、誰でも自由に閲覧できるように用意しておけば、そのような事態を未然に防げるのではないでしょうか。

まなめ 昔からネットを使っている人も、何かちゃんとしたリテラシー教育を受けたわけではないですよね。最近のネットユーザーと同じ条件下にいるはずなのに、ある程度のリテラシーを身に付けられている。だから今こうして、最近のユーザーが頻繁に炎上してしまうのを見ていると、両者の違いはどこから生まれてきてしまったのだろうかと、不思議に思います。

 今は昔と違って、投稿をちょっと失敗しただけでひどく炎上し、人生が転落……なんてことが起きてしまう時代ですよね。ネットのリテラシーが低いというだけで、企業の重役がうっかり機密情報をSNSで漏らしてしまい、解雇されることさえありますし。そういう事態を未然に防ぐため、リテラシーの差を埋められる“教科書”があればいいと思いますし、自分でも作りたいですね。

画像 「Wikipediaではできない独自研究をまとめたかった」と話す松永氏は「閾ペディアことのは」という個人Wikiサイトを運営している

松永 最近はネットの空気が変わってきているなと感じています。お笑い芸人のスマイリーキクチさんが殺人犯であるという嘘の情報を、ネットの“荒らし”によって1999年から約10年間も流され続けた事件を機に、事実無根の誹謗中傷があった場合は警察が動くようになりました。そのほか、Wikipediaの編集方針も存命人物の伝記には注意を払うようになり、たとえ記載された内容が事実であっても、対象者の評判を著しく下げるようなことについては掲載が避けられ始めました。「悪いことを一生懸命書くのは止めましょう」という流れになってきているんです。


 あっという間に自身の書き込みが拡散されてしまうSNSの時代においては、ネットリテラシーの低さが実生活上の致命的な問題を引き起こすことがある。しかし、そのリテラシーを学べる“教科書”は昔から存在せず、誰もが試行錯誤しながらネットを使用してきた。

 松永氏の指摘をもとに今後のネットを予測すると、警察やサイト運営者が新しい方針として、悪意の強い書き込みに制約を設けるようになることで、炎上の数はだんだんと少なくなっていく、ということになるのだろう。だがもしそうなったとしても、ユーザーは注意深くネットを利用しなければならないことに変わりはない。不用意な発言や無責任な投稿は、常に避けられるべきだからだ。

 今回は炎上が起こる背景やその対処法に焦点を当てたが、第2回では炎上をあらかじめ防ぐ方法を特集する。特に情報発信者側が、ネットに書き込む際に気を付けるべきことを紹介していく。

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