「年功序列は悪!」ではないずっと「安月給」の人の思考法(2/2 ページ)

» 2013年08月20日 11時00分 公開
[木暮太一,Business Media 誠]
前のページへ 1|2       

安月給の思考法4.「技術革新が進めば生産性が上がり、給料も上がる」と期待している

『ずっと「安月給」の人の思考法』(アスコム)

 現代では、あなたの労働力の価値を引き下げるものがあります。そこに気付いていないと、知らぬ間に労働力の価値が下がり、給料が安くなってしまいます。これからの時代、労働者は自分自身で「価値」が下がらないように、これらに対抗し、自分で自分の身を守らなければいけません。

 あなたが携わっている業界で最新技術が発明されたとしても、喜んではいられません。確かに業務は効率化し、あなたがやらなければいけない業務は減るかもしれません。生産性も上がるでしょう。でも、「仕事が楽になった♪」と喜んでいる場合ではないのです。

 例えば、僕が身を置いている出版業界では、このような話があります。昔は(と言ってもほんの20〜30年前までは)、作家は原稿用紙に手書きで原稿を書きました。それを編集者が預かり、写植屋というプロの打ち込み屋さんに依頼して、1文字ずつデータ化していたのです。

 それが今では、ワードなどのテキストファイルに作家自身が打ち込んだ原稿を、編集者にメールで送っています。

 作家自身も、かつては「間違えたら、書き直し」でした。単なる書き間違いだけではありません。原稿を読み直して磨いていく過程で、どんどん修正したくなります。今では、単にファイルを上書き保存すればいいだけです。原稿の順番を変更したい場合でも、コピー&ペーストで簡単に入れ替えができます。僕自身、この本の原稿は大きく3回も書き直しています。

 そんな作業を、今まではすべて1から手作業で行っていたのかと考えると、気が遠くなります。考えただけで冷や汗が出るような膨大な作業です。現在、この「1から手書きでやり直し」がなくなっているだけで、格段に執筆作業が楽になっています。そしてその分、年間に書ける本の冊数が格段に増えています。

 ワードは出版業界のための技術ではありませんが、「文字業界」に技術革新が起こったために、革命的に仕事が“効率化”しました。つまり、1冊の本を書く労力が減ったのです。これまでは1年かけなければ完成できなかった原稿も、3カ月でできるのです。

 その結果、作家がもらえる「1冊あたりの報酬」は相場が下がりました。「かつては1年必死にがんばらないといけなかったけれど、今では3カ月で済むから報酬もそれくらいでいいよね?」ということです。

 だれかがこう言っているということではありません。業界の雰囲気として、また相場としてそのように変化してきたのです。

 正確に言うと、作家がもらえる報酬(印税)は、「書籍定価の10%×印刷した部数」であることがほとんどです。この計算式自体は、いまも昔も変わりません。

 しかし、最初に印刷する部数が驚くほど減っています。20年前は、初版部数(最初に印刷する冊数)は、3万部が平均でした。売れるか売れないか分からないけれど、それでもそれくらい印刷するのが通常だったのです。

 なぜか? そのくらい刷らないと作家が生活できず、結果的に原稿が書けないからです。

 でも今は、初版部数の平均は4000部程度です。この20年で、8分の1以下に減ったわけです。すると当然、作家がもらえる印税も減ります。

 一般的には「本が売れないから、初版部数が減っている」と思われています。確かに、本がもっと売れれば印刷部数ももっと増やすでしょう。しかしその理由は「後付け」です。

 本質的には、初版部数を減らしても作家が生きていけるので(1冊あたりの部数が減っても、原稿を書く労力が減り、書く本の数自体を増やせるので生活できるから)なのです。

 作家だけでなく、出版社の編集者も営業もその他の管理部門の社員も同じです。1冊1冊が売れなくても、生きていかれるくらい業務が効率化しているので経営が成り立っているのです。

 もしかつての技術のまま、部数が減っていったらどうなるでしょう? その場合、作家、出版社の従業員などの創り手は生活できなくなり、この業界自体が消滅していたと思います。もしくは、「これまでのように3万部刷っても大丈夫な本(それくらい売れる本)」だけを、点数をしぼって出すことになっていたはずです。

 技術革新により業務が“効率化”したために、生き残りやすくなったのですが、同時に労働力の価値が下がったのです。

 盲目的に「技術革新が進めば、仕事が楽になって生活が豊かになる――」と考えるのは、「安月給の思考法」なのです。

安月給の人の8つの思考法 まとめ

3.「年功序列は悪!」と考える

4.「家族を大事にする会社です」にグッとくる



(次回は、「チャンスはいつまでもある と思っている」について)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ