新卒社員相手に話をするときは、上司や同僚に対する話し方以上にロジカルな話し方を意識しよう。仕事ができる人は多少漠然とした伝え方でも意を汲んでくれるが、新卒社員はそうはいかない。
「例えば、情報収集のために本屋に行くと良いとアドバイスしたいとき。『週に一度は本屋に行くといいよ』とだけ伝えても、何のために、何をすべきかが汲み取れず、ただ本屋に行っただけで終わってしまう、なんてことになりかねません。『営業トークに生かすために、雑誌や週刊誌の見出しをチェックしてトレンドを追うと良い』など、具体的に何をするといいのかまで伝えてあげましょう」
社会人としての常識が身に付いていない新卒社員がやりがちなのは、努力の方向の勘違い。「資料を見やすく」という指示に対し、学生のノリでカラフルな資料を作ってくる、なんてことも起こりがちだが、「なんでこんな余計なことをしたの!?」と責めたい気持ちはグッと押さえて。
「自分が思っていたアウトプットと違うものが出てきたら、まずは自分の伝え方が悪かったと考えてみましょう。頑張るポイントが違ったとしても、本人は良かれと思って一生懸命やっているので、『見やすくしようとしてくれたんだね。でも、仕事の資料は3色以内にしたほうがスッキリしていいよ』と伝えてみるなど、工夫や努力は認めてあげましょう。不安があるときは『ここまでできたら確認にきてね』と声を掛けると良いですね」
新卒社員にとって一番つらいのが、先輩が忙しそうで聞きたいことが聞けないという雰囲気。その結果、やるべきことを自己判断して間違った方向に進んでしまうと、教育係、新卒社員ともに時間的なロスが大きくなってしまう。
「そうならないために、何よりも新卒社員を優先させる『コミュニケーションタイム』を決めておきましょう。朝と夕方の30分など、あらかじめ時間を確保してしまうのです。また、すべきこと、やったこと、できるようになったこと、分からないことなどをまとめておくノートを新卒社員に持たせて、忘れないうちにこまめに書き留めさせると良いでしょう。コミュニケーションは、そのノートを介して行えば完璧です」
1人で仕事をすることができない新卒社員は、ときには朝早く出社して自習をしたり、不慣れゆえに仕事が終わらず、残業することもあるだろう。にも関わらず、中には何度言っても始業ギリギリに出社したり、「自分は残業しません」と宣言してはばからない新卒社員もいるかもしれない。注意の1つもしたいところだが、そんな“困ったちゃん”たちはあえて放っておくのも1つの手だという。
「そういうタイプは、自分が『しまった!』と思わない限り態度を改めようとしないものです。例えば残業しないと宣言している新卒社員には、常識がない印象を周囲に与えてしまうことや、仕事を任せられないと判断され、チャンスを逃してしまう可能性があることをまずは伝えましょう。納得していないようであれば、しばらく放っておいて様子を見る。いずれそんなことを言っていた自分を恥じるときがきます(笑)。ただし、見過ごすときは周囲に意図を伝えて、了承を得ることを忘れずに。あまりにも手に負えない場合は、1人で抱え込まずに進んで周り人の力を借りましょう」
新卒社員の教育は、自分の仕事を見つめ直すチャンスでもある。この機会に、毎日何気なく行っている行動を洗い出し、1つ1つの意味を考えてみよう。周囲の人にも協力してもらって、ズレがないかをチェックできれば理想的だ。教育係を任されたということは、あなたのスキルや人間力が認められているということ。あくまでも自分のキャラのまま、新卒社員と一緒に学び直すぐらいの気持ちで頑張って!
(取材・文:朝倉真弓)
今回、お話をうかがった人:原田由美子(はらだ・ゆみこ)さん
大手生命保険会社に営業職として入社。1995年、人材育成コンサルティング会社へ転職。企画営業職、取締役営業統括職としてキャリアを積む。
2006年、Six Stars Consulting株式会社を設立、代表取締役に就任。中堅・中小企業の独自性を際立たせ、業績向上につなげるための人材育成体系づくりや、オリジナル教育プログラムの開発に携わる。手がけた組織は150以上。
2010年、日刊工業新聞社ビジネスリーダーズアカデミー講師。
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