信用保証制度での保証率が全額から8割に――経済成長のために世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる

リーマンショック以降、もしものときに全額を負担するとしていた政府の公的信用保証が8割に戻されます。それが「経済成長を鈍化させるどころか成長を促すだろう」と思われる理由とは?

» 2014年06月18日 11時00分 公開
[川瀬太志,Business Media 誠]
誠ブログ

 「100年に一度の不況」と言われた2008年秋のリーマンショック以降、政府は中小企業の融資が焦げ付いた場合に国などが肩代わりする公的信用保証を100%に設定していましたが、それが見直されるようです。そこで今回は、中小企業金融のあり方について考えてみたいと思います。

中小企業融資の保証 原則80%に戻る

 景気は明らかに回復してきました。2013年度3月期決算の上場企業の7割が増収増益。前年対比で平均36%も経常利益が増えたそうです。2014年4月の物価上昇率も3.2%とデフレ脱却の気配を見せています。

 中小企業も含めた有効求人倍率は4月には1.08倍と17カ月連続で増加。さまざまな業種で人手不足感が出てきています。

 そのため、中小企業金融の姿勢も見直されていきそうです。

中小融資の保証縮小 政府検討、全額から原則8割に
政府は中小企業の融資が焦げ付いた場合に国などが肩代わりする公的信用保証を、段階的に縮小する検討に入った。2008年秋のリーマンショック後に特例として認めた全額保証を縮小するのが柱で、約100業種を対象に保証率を危機前の原則だった8割に戻すことを議論する。信用保証は財政収支が悪化しており、国と民間の負担割合を見直す。

(2014年5月20日付 日本経済新聞)

 ここまで何度か言及している「公的信用保証」とは、信用力が乏しいために事業資金の融資が受けにくい中小企業に対して、その債務を公的機関(信用保証協会)が保証することで金融機関からの融資をスムーズに受けるようにする公的な金融支援制度です。

 もし、その中小企業が融資の返済ができなくなった場合、代わりに信用保証協会が保証人として金融機関に返済(代位弁済)してくれます(ただし、債権者が銀行から保証協会になるだけで、債務がなくなるわけではありません)。

 リーマンショック前までは、保証は融資額の8割まで、対象業種も100業種程度に限定されていました。ところがそれを機に、政府は経済緊急対策として保証を融資額100%にし、対象業種もスーパーやサービス業など約1000業種にまで広げて、中小企業の資金繰りを助けました。

 今、全国の金融機関の中小企業向け融資残高は、約216兆7000億円です(2014年3月末時点)。このうち信用保証を使った融資は約29兆8000億円。中小企業融資の約14%、約150万社が信用保証付きの融資を利用しています。

100%保証は金融機関と企業、双方のモラルを下げる

 このように中小企業を助ける「100%全額保証」ですが、銀行の「モラルハザード」(自己規律の喪失)を引き起こす懸念があります。

 従来の80%保証なら万が一の時に銀行側にも20%相当分の貸し倒れが発生する可能性があるので、融資時には銀行も審査をします。しかし、融資した中小企業の経営が行き詰まって返済が滞ったとしても国が全額補てんしてくれるのであれば、銀行はもはやノーリスクということになります。であれば、銀行はどんな会社に対してもいくらでも貸します。それでも金利収入が得られるのですから。

 確かに、リーマンショックの時にはそれくらいの不況インパクトがあったので、確かにこの緊急経済対策は中小企業の経営破たん防止に一定以上の成果を上げました。

 ただ、信用保証協会が肩代わりした額(代位弁済額)はやはり増加しました。ここ数年は代位弁済額が徴収した保証料を上回る状態が続き、2012年度は3500億円の収支赤字だったとのことです。

 ここで考えてみたいのは、そのお金がどこから出ているか、ということです。信用保証協会は公的機関ですから、この赤字分は国が財政支援しています。つまり私たちの税金から出ているということです。

 冒頭の記事はこれを「来年(2015年度)から80%保証に戻す」、つまり正常な状態にするとしたわけです。これはいいことだと思います。むしろ長くやりすぎたくらいでしょう。なぜなら100%保証はあくまでも「100年に一度の不況」に対する緊急対策だったのですから。

 もはや景気はすっかり回復しています。これほどの経済状態の中で今でも経営危機だという会社は、恐らく事業構造そのものが悪いか、時代環境の変化に対応できていないのではないでしょうか。自社の経営改善努力不足のため経営危機にあるような企業であれば、国が税金を使ってまで保護する必要があるのかと、疑問を感じずにはいられません。

すでに保証付き融資は減少している

 今回の見直しで、大企業だけでなく中小企業に至るまでリーマンショックの危機が終息を迎えたともいえそうです。6年もかかったことにちょっと驚きましたが、実態としてはもうとっくに緊急対応は不要になっていたようです。

 実は最近、メガバンクなどはあまり信用保証制度を使っていません。なぜなら保証制度付融資はそれほもうからないからです。信用保証を使うと貸し倒れリスクは減るものの、貸出金利も低くなります。今、金融機関の総合利ざや率は0.2%ほどです。1億円を1年間融資しても20万円しかもうけられません。利ざや率の改善が経営課題である中、通常融資よりもはるかに利ざやが少ない保証協会融資は敬遠されつつあります。

中小企業金融の健全化は「成長戦略」

 麻生太郎金融担当大臣はこの保証制度の変更について、「民間金融機関の目利き・経営支援を促すため」「6月にまとめる政府の成長戦略に盛り込む」と言っています。

 つまり、この信用保証制度の見直しは、「金融機関の審査能力を上げるため」、「成長戦略につなげるため」と政府は考えているということです。

 金融機関はリスク覚悟で融資し、その対価として金利収入を得るのが基本です。そのためには企業の事業を審査する能力が不可欠です。国が100%保証していては金融機関の審査能力は落ちるばかりでしょう。

 金融機関の厳しい目が企業を鍛え、産業を育成するのです。そうして、将来性のある企業を金融面で支え、一方で時代に合わない企業の退出を促すこと、これが経済の活性化や成長につながる、ということでしょう。

 すでに時代遅れとなり存在価値を失った「死に体の企業」が、金融支援で延命されて生き残りのためにダンピングをしたりして市場を乱し、健全企業の足を引っ張る、といったことはよくあります。

 金融を正常な姿にすれば、そのようなことを防ぎ、市場経済をまともにする、いわば成長戦略でもあります。そのような考えは真っ当だと思います。

 そして中小企業経営者に求められるのは、保証なしでも事業資金を貸してもらえるような企業体質作りでしょう。お互いが切磋琢磨し、経済を活性化し市場全体が成長していけるのです。

 (画像はイメージです)

※この記事は、誠ブログ『信用保証制度見直し、リーマン危機はようやく終焉へ』〜中小企業金融は正常な「あるべき姿」を目指す方向に〜より転載、編集しています。

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