計画マンの5カ年計画:樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」
何でもかんでも計画を立てて、それを無理やりに実行実現する――それが計画マンである筆者のポリシーだ。だが初めて長期間の計画を立てたのは意外と遅く、33歳のころ。まずはその話を書かねばなるまい。
筆者は“計画マン”である。何でもかんでも計画を立てて、それを無理やりに実行実現するのだ。
大学3年のころ、オーストラリアへ留学することが最初だった。オーストラリアでの身元保証人探しから始まり、大阪の船会社を走りまわって、オーストラリアまでの巨大な石炭船にタダ乗りさせてもらったのも計画の実現だった。1969年の大学紛争は計画外だが、だいたい予定通りの留学経験だった。
大学の同級生と結婚することになったのは、故意(恋?)の偶然でこれは計画ではないが、結婚後に3人の息子たちを持ったのは計画の内だった(本当は5人ほど子どもが欲しいという計画だったが、さすがこちらの体力と気力が計画について行かなくなったので、60%でギブアップした)。
――というように計画を立てるのが大好きな筆者だが、いわゆる5カ年計画レベルの長期計画は筆者が33歳の時に初めてプランニングした。まずその話を書かねばなるまい。大先輩の取締役に教えてもらった話である。
33歳にして初めての5カ年計画
1980年、筆者はサウジアラビアのリヤドに駐在していた。その時に、新任の本社役員が出張してきた。
筆者がアテンドして予定のスケジュールを終え、空港まで送った。当時のリヤド空港は、リヤドの町の真ん中。事務所から10分もかからない距離だ。空港ものんびりしていて、出国する乗客は航空会社のチェックインを終えて、出国スタンプをパスポートに押した後、再び空港外の喫茶店のようなところで、コーヒーやお茶を飲むことができた(今はもちろん不可能)。
その時に、その新任役員が筆者に話しかけた。
役員 樋口君、お世話になったね。ところで君、わたしからのアドバイスを聞くかい。
筆者 はあ、何でしょうか。教えてください。
役員 今、君はいくつだ。
筆者 33です。
役員 70から33を引いてみよう。
筆者 37です。
役員 それを5で割れ。
筆者 7とあまり2年ですね。
役員 つまり君は70歳までに7つのことで、一流になれるということだ。
筆者 はあ?
役員 5年かけてがんばれば、誰でも一流になれるということだよ。
筆者 はあ、なるほど。で、取締役は今何を?
役員 今は書道だな。「愛と誠」なんて書いているよ。
筆者 お若いですね。
役員 何でもいいんだ。考えて実行してごらん。
「了解しました。考えます」。計画マンはすぐに行動するのである。それから役員はこう続けた。「奥さんの生きがいを造ることも大事だ。奥さんの生きがいを考えないのは失格だよ」「それは、そうですね。分かりました」――という感じである。
意外とよかった5カ年計画
筆者は家に帰って、ヨメサンにこのアドバイスを話した。「わたしたちも第1次5カ年計画を立てよう。お前は何をする?」と聞いた。「そうね、わたしは本を出版しようかしら」「ほう、それはわたしと同じだ」。計画マンの筆者はさっそく議事録として書き留めて、筆者とヨメサンはお互いにサインした。
この“覚書”を元に、筆者はヨメサンに執筆を迫った。そして5年かけて、最初の本『海外生活百科』を共著で出版できたのだ。
当時は5年間という何となく区切りのいい期間に何となく納得していたが、1冊書籍を仕上げてみると実はそれなりに合理的な期間のような気がしてきた。というのも、あくまで筆者の感覚ではあるが、誰の人生であっても1年間に8件ほどは面白いことが起こると考えている。そして、1冊の本には30件〜40件のトピックが必要で、1年間8件だとすると5年間では40件となり、本を書き上げるのにちょうどいい期間であるからなのだ。
なお1985年から1989年までの第2次5カ年計画では、(1)毎年本を1冊出版すること、(2)アイデアマラソンの継続――の2つを掲げた。ちなみにヨメサンは第1次5カ年計画で、筆者に追い回された体験から、第2次5カ年計画からは逃げた。それでも共著の路線は続いて、現在までに合計8冊の共著を実現している。今年は第6次5カ年計画(2005年〜2009年)の最終年に該当する。
仕事においても利益計画や営業計画を出してきたが、会社の中期計画は3年間が限度。それ以上長いと、世界経済が激変している中で、まったく予想外の状況になってしまう。ところが不思議に個人の5カ年計画は、見通しがきくものだ。来年度からの第7次5カ年計画の立案も楽しみだ。
今回の教訓
「計画が立てられないのかい? それなら僕の計画をお食べ」(計画マン)
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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)
1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら。アイデアマラソン研究所はこちら。
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