飲み会なき時代を生きる――『不安な経済/漂流する個人』:藤沢烈の3秒で読めるブックレビュー
フラット化し、一見自由が進むかに見えた世界。その一方、既存コミュニティは崩壊し、きずなを作る飲み会のような場も減少した。コミュニティから放り出された個人は、不安を抱えたまま生きざるを得なくなったと『不安な経済/漂流する個人』の著者であるリチャード・セネットは言う。
フラット化し、一見自由が進むかに見えた世界。しかし、自由は同時に不安を抱きながら生きることを強いることに……。ロンドン在住の社会学者リチャード・セネットは、そんな現代社会を『不安な経済/漂流する個人』で批判。社会主義でも個人主義でもない、第三の方向性を指し示した。
不安へと向かう社会
結束度は強いが個人は抑圧されがちなのが20世紀社会(図表左上)。軍隊・工場に象徴され、官僚をトップにおいた合理的なピラミッド社会であった。その完成形は日本だろう。終身雇用・年功序列によって社内の結束を高め、高い工場生産性を保ちながら世界経済を席巻した。
20世紀も後半に進むと、図表の右側、すなわち自由の方向へと進む。市場と個人に重きがおかれ、情報技術の進展とともに既存コミュニティは崩壊していった。流動性が高まるゆえに、個人の帰属心(ロイヤリティ)は低下。飲み会のようなスタッフ同士のきずなを作るインフォーマルな場も減少。組織もフラット化して中間層がいなくなったから、組織への知識を持つ人物も減ってしまう。コミュニティから放り出された個人は、不安を抱えたまま生きざるを得なくなったと著者は言う。
個人を支える時代
こうした社会の変化への対策は3つあるという。
- 物語:英国や米国では労働組合が中心となり、職業紹介・年金/保険、そして議論の場などコミュニティ機能を提供。企業を離れても労働者が物語を維持できる役割を担った。
- 有用性:金銭とは別の形で、公益に関わる仕事や家庭を支える仕事に対して高い地位(ステータス)を与えるべき。
- 職人技:組織への帰属でも単なる私欲でもない、何ごとかを「正しく」行うことへのコミットメント=職人技を重んじるべき。
21世紀は個人が主役になるのは間違いない。国でも企業でも家族でもなく、個人の尊厳を高め、個人の物語を支える新しい仕組みが必要になるのだろう。
著者紹介 藤沢烈(ふじさわ・れつ)
RCF代表取締役。一橋大学卒業後、バー経営、マッキンゼーを経て独立。「100年続く事業を創る」をテーマに講演・コンサルティング活動に従事。創業前の若者に1億円投資するスキームを企画運営し、話題を呼ぶ。「雇われ経営参謀」として500人以上の経営・企業相談を受けてきた。ブログに毎日書評を掲載し、現在1200冊超。
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「これからの日本に必要なのは、革新的な経営感覚を持った若き経営者だ」――そう考え、有望な人材の発掘・育成のサポートに日々邁進する経営コンサルタントがいる。藤沢烈、33歳。マッキンゼー出身、現在は独立してベンチャー企業のコンサルティングを行う、彼の日常とは? - 1人シリコンバレー創業プロジェクト、そして――藤沢烈さん(後編)
「エゴは罪悪ではない」「200年先を見据えて考える」――思案しながら藤沢さんが選びだす言葉は非常にユニークだ。その彼が企画したのは“起業経験がない若い人に、1億円出資します”という一大プロジェクト。彼の思いは、そこに至るまでの人生とは……?
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