大間さんによれば、特に議論が集中したのはもともと7つあったバリューのうちの2つ、「やるべきことをやる」と「逃げずにやり切る」だった。
どちらも真摯に仕事に向かう姿勢を促す言葉だが、今、やっていることの正しさを信じて疑わないような視野の狭さを連想させることもある。
「『物事に向き合ったらやり遂げるまでやめない』というのは、もちろん良い面もあります。でも、今、やっていることがミッションの実現につながらないのなら撤退も必要ですよね。僕らは今、非連続な成長を目指しています。これらの価値観が、このフェーズにおいて本当に大事にしていかなければいけないものなのか、ということが議論になりました」(大間さん)
一方で、こういう価値観を大事にし続けたいという意見もあった。部門によっても重視する価値観の傾向は違ってくる。それぞれの意見を聞いた上で、最後には経営メンバーが計8時間ほど議論して結論をまとめた。
「『やるべきことをやる」『逃げずにやり切る』といった言葉は、社員が増えることによって価値観が多様化したこともあり、削除することにしました。議論の上、より今のフェーズに適しているであろうという判断のもと『仕事に向き合い、仕事を楽しむ』という言葉を新たに入れています。
『仕事に向き合う』は『逃げずにやり切る』を言い換えたという面がありますが、それに加えて『仕事を楽しむ』という言葉も入れました。これまでは『楽しむ』というような言葉は使ってこなかったので、ここは結構、大きな議論になりました。僕らはこれから新規事業もやっていこうとしていて、社員には『変化』に積極的になってもらいたいと考えています。ただ仕事に向き合うだけでなく、主体的に、ポジティブな気持ちを持ってほしいという意図で、『楽しむ』という言葉を入れたんです」(大間さん)
一つ一つの言葉が社員にどのように受け止められるか、役員がここまで慎重に時間をかけて議論するのは、Sansanにおいてミッションやバリューの持つ意味がそれだけ大きいということだ。
Sansanが「カタチ議論2018」を行った背景には、同社が事業上の転換期を迎えているということもある。
「Sansanはこれまで、クラウド名刺管理サービス、つまりビジネスの『出会い』で世界を変えるという目標を持ち、法人向けのSansanと個人向けのEightという2つのプロダクトに集中してきました。ですが、2019年は新規事業開発室を立ち上げ、これらのプラットフォーム上で新たなビジネスを展開しようとしています。社員からすると、『どうして新しいことをする必要があるのか』ということが、すぐには腹落ちしない可能性もあります。
このタイミングで『カタチ議論』をやったのは、議論に参加することで会社のミッションとバリューを“自分ごと”にしてもらいたいと考えたからです。そして、ミッションを実現するためにも、積極的に変化を楽しんでもらいたいという意図で、この機会に『変化を恐れず、挑戦していく』というバリューを加えました」(大間さん)
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