「花より団子」という言葉もあるが、ミュージカルの演出に劣らず、観客を魅了する飲食の仕掛けが多々あった。堀江の食へのこだわりを感じさせる。観賞中にはアルコールの飲み放題付きの「スペシャル和牛フルコース」が用意された。今回の工夫は2点あるという。「前回は英国式の料理に寄せていたが、ワクワク感が足りなかった。今回は和牛の『ミニ牛丼』を入れています。牛丼って、すごくそそるじゃないですか」
もう1点は料理が冷めないようにするための工夫だ。18年の公演での反省を踏まえて工夫したという。季節柄、料理は冷めてしまいやすい。調理設備を会場に設置できない中で100人以上に料理を提供しなければならない。
「例えばスープは魔法瓶から直接入れるようにするなど温かいままで提供できるようにしました」
先述した通り豪華料理付きのチケットは4万円からで、15万円の「VIP席」では堀江が休憩中と終演後に同席して歓談ができる。今回は、休憩中の幕間を15分程、昨年より延長し、40分間ほど取っていた。幕間の時間を延ばすことで、よりコミュニケーションの時間が取れ、「忘年会」的な演出ができる。それが顧客満足につながるのだという。
富裕層をターゲットにした高額チケットには伏線もある。堀江がかねて携わっている和牛を広める事業の「WAGYUMAFIA」では、3万5000円の神戸牛カツサンドなどを展開している。堀江は「(そういう取り組みとも)連携が取れている」と答えた。従来はなかったような富裕層のターゲットを創出することで収益化につなげている。
また幕間の時間に「キャスト応援チップセット」を販売し、チップ3枚(1500円分)で一部のキャストとチェキ撮影ができるシステムを導入した。「AKBでいう『握手券』的な位置付けです。キャストが直接サービスをすることによってインセンティブになる」。また、チップ1枚で「おてやすみ」というハンドマッサージも受けられる。
興味深かったのは、耳が聞こえにくい人でも字幕で演劇を見ることができる「字幕グラス」が用意されていたことだ。飲食など楽しめる要素を作ることによって間口を広げつつも、少数の人にきちんと配慮する堀江のセンスを感じた。また今回初となる12月24日、25日の大阪公演では、バーレスク東京(東京・六本木)のダンサーを起用するなどしてダンサーの数を増やしエンターテインメント性をさらに高めたいという。
以上が堀江のクリスマスキャロルへの取り組みだ。演劇と飲食を一体化させた斬新な発想の背後には、DMによる声掛けなど一見すると地味で泥臭い営業活動があった。
演劇界を巡る現状は厳しい。19年6月には上川隆也が所属していた劇団「演劇集団キャラメルボックス」の運営会社が破産開始決定を受けるなど(関連記事を参照)、観客動員数の伸び悩みから業界全体で苦戦を強いられているのが実情だ。だが、堀江は独自の取り組みを発想し、実行することによって、従来とは異なる演劇のポテンシャルを提示し開拓しようとしている。
国内市場が縮小していく業界もある中、苦戦を強いられている経営者も少なくない。だが、従来のやり方や視点を変えることによって潜在的な可能性を引き出そうとする堀江のまなざしは、将来へのヒントになるはずだ。(敬称略)
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