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人口減少時代にリニアは本当に必要なのか?「スーパーメガリージョン」誕生の意義(4/4 ページ)

» 2020年03月28日 05時00分 公開
[武田信晃ITmedia]
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デジタル社会だからこそFace to Faceの社会づくりに貢献できる

 中島理事長は言う。

 「いつでも誰とでもインターネットを通じてコミュニケーションを取れる時代だからこそ、イノベーションの源泉と言われるFace to Face(顔と顔が向かいあう社会)が重要になってきます。異なる文化や知見を持つ人たちが直接会うことで「化学反応」が起こりイノベーションにつながるので、リニアはそれを後押しする強力な武器となります。21世紀に日本が存在感を発揮するために必要不可欠なピースだと思っています」

 確かに、イノベーションの聖地であるシリコンバレーには、Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)など、インターネット時代を象徴するIT企業が多数存在する。

 当然、このエリアにはテレワークの仕組みが整っている企業が多く、新型コロナウイルスの感染拡大により、急にテレワークがもてはやされるようになった日本の「先」を行っている地でもある。

 だが、そもそもFace to Faceのコミュニケーションが不要で、インターネット上のやりとりだけでイノベーションが発生したり、高い付加価値を創ることができたりするのであれば、わざわざ地価の高いシリコンバレーにオフィスを構える必要はない。

 前出のリチャード・フロリダ氏も著書の中で「地理的な集中がイノベーションにとって特に重要」と指摘している。同じく前出のエンリコ・モレッティ氏も「人は互いに顔を合わせてコラボレーションするとき、もっとも創造性を発揮する」と著書で記している。

photo Googleの本社。IT企業だからこそFace to Faceのコミュニケーションを大切にしている(写真提供:ゲッティイメージズ)

 テレワークは多様な人の社会参画を可能にする手軽で便利なシステムであり、日本では更に広がっていく必要があるが、それにFace to Faceのコミュニケーションを組み合わせることにより、日本はより付加価値を出せる国になる可能性がある。

 ちなみに、人口減少による経済のシュリンク(縮小)を危惧する声について、そもそも定住人口だけで考えるのはナンセンスという意見も多い。つまり、人口減少社会においては、定住人口のみならず交流人口を拡大する必要があり、それには訪日客の拡大がカギとなる。

 現状、訪日客を増加させるにあたって最大のネックとなっているのが、羽田空港の発着枠だと言われる。リニアが大阪まで開通すれば、現在約2割のシェアをもつ東京〜大阪間の航空便が限りなくゼロに近づくことが予想されており、その分発着枠にも空きができる。この枠を国際線に割り当てることができれば訪日客を増加させることも可能だ。訪日客の増加は内需拡大に直結する。

 また、9兆円を超える資金を投じてまで建設する必要があるのか、という疑問も湧くが、リニア中央新幹線に税金が投入されることはなく、全額JR東海の自己負担で建設される。財政投融資を活用した3兆円が独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構から同社に融資されているが、これは利子を含めてJR東海が返済するものなので、言ってみればJR東海に造らせておき、それを最大限利用すれば良い。

 人口減少社会でマンパワーが減る中、都市圏を拡大し、人の往来を活発化させるリニア中央新幹線は、多くの人が想像している以上の「良い想定外」が生まれるのだろう。人口減少社会だからといって、それに合わせて経済を縮小させる必要などないし、むしろそうすべきではない。21世紀に日本が存在感を発揮し続けるためには、リニアをうまく「利用」すべきであろう。

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