アクセルスペースが描く事業を実現するには、現状では大きな課題がある。それは、ロケットを打ち上げるチャンスが、世界的に見ても非常に少ないことだ。中村氏によると、行きたい軌道に衛星を運んでくれる打ち上げの機会は、年に3回か4回しかないという。現在の小型衛星の打ち上げは他社の衛星との相乗りになるのが一般的であるため、打ち上げの回数はどうしても限られてくる。
この課題を解決する鍵となるのが、ISTが開発している「ZERO」の存在だ。「ZERO」は超小型衛星を宇宙に運ぶ小型ロケットで、量産化して、頻繁に打ち上げができる体制づくりを目指している。安価に宇宙に衛星を運ぶことができる新たなインフラになるという画期的な構想だ。
アクセルスペースが開発する超小型衛星は、重さが100キロ級になる。稲川氏は、「ZERO」が衛星を運ぶ能力も100キロまでを想定して開発していると述べ、アクセルスペースの衛星を打ち上げるつもりで「ZERO」を開発していると明言した。
中村氏は、現状ではロケットを契約してから打ち上げるまでに、1年半から2年ほどかかっていると説明。「小型のロケットがまさに定期的に稼働するエアラインのように毎月、毎週打ち上げられて、必要があれば依頼してから1カ月後にすぐ衛星を打ち上げられるようになってほしい。そうなってくると期待を込めてISTの開発を待ちたいと思います」と「ZERO」の実用化にラブコールを送った。
ディスカッションを通して語られたのは、宇宙が憧れの場所や、特別な場所ではなくなり、宇宙産業、宇宙ビジネスが現実のものになりつつあるということだった。中村氏は最後に「われわれの宇宙産業は、製造業ではなく情報産業に移りつつある」と語り、5年後には多くの衛星を定常的に打ち上げるようになっていたいと抱負を述べた。ISTが小型ロケットで目指す宇宙輸送のインフラと、アクセルスペースが超小型衛星によって目指している情報のインフラが実現する日は、そう遠くはなさそうだ。
ISTはこのトークセッション後の5月2日に「MOMO5号機」の打ち上げを予定していたが、新型コロナウイルスの影響により、大樹町からの要請を受けて打ち上げを延期した。休業補償の対象にはならず、打ち上げ延期で企業活動を事実上停止せざるを得なくなった。
自分たちでこの危機を乗り越えようと、ISTは5月2日に緊急支援のクラウドファンディングを開始。目標金額は900万円に設定されていたものの、この金額は公開からわずか10時間足らずで達成し、5月29日時点では支援者2261人、目標の4倍以上の3988万円もの支援が集まっている。
日本全国から、もちろん大樹町内からも宇宙産業という未来への希望の灯をつなげようと共感が広がっている。このクラファンは5月31日まで受け付けていて、コロナショック下でも宇宙ビジネスの実現に向けて前進を続けている。
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
パラリンピックがいつどこで始まったか、知る人は少ない。
そして、パラリンピックの発展に、日本という国が深く関わっていることも、ほとんどの日本人は知らない。
パラリンピック60年の歴史を紐解きながら、障害者、医師、官僚、教師、そして皇室の人びとといった、パラリンピックの灯を今日までつなげてきた人日本人たちのドラマを、関係者の貴重な証言から描く。
日本の障害者スポーツ史の決定版。
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