Aさんによるハラスメントがそれほどまでに横行していたのであれば、なぜスタッフの皆さんはAさんの上司や本社宛にハラスメントを訴え出なかったのか、またAさんの上司が気付かなかったのか、という疑問が生じる。
これに対してスタッフの一人は「パワハラ的なことは日々言われていたが、Aさんから『AMや上司は私と同じ視点に立っている、告発してもムダ』だといわれて抑え込まれていた」と証言。また訴え出ようにも「どこに言えばいいのか分からなかった」「ヘルプラインを知らなかった」とのことであった。このあたりの対応については、会社側も周知不足であったとの非難は避けられないだろう。また、仮に内部告発できていたとしても「話の内容によって、誰が告発したのかAさんにバレてしまう。その後逆恨みされて、矛先が自分に向くのが怖い」という意見もあった。
さて、普段の仕事の様子については、Aさん本人の言い分と、Aさんの元同僚や元部下だったスタッフの方々の言い分に大きくギャップがあることが判明した。ではもう一つの重大な問題である「勤務記録の改ざん」についてはどうだろうか。
「出勤時間や退勤時間が上司によって改ざんできた」「月の残業時間上限である30時間に合わせるために自発的に修正するような圧力があった」との報道がなされた後、ワタミ側でも、「Aさんの上司にあたるAMが、Aさんの打ち込んだ出勤記録を事後的に修正した」点については認めている。さすがにこれについては申し開きができないように思われる。
しかし、調査を進めたところ、この経緯についても当初報道で語られていない背景が明らかになった。確かに事後的な勤怠記録の変更がなされたことは事実なのだが、これは本人意向を無視した「改ざん」などではなく、Aさん本人の同意があった上での「修正」だったのである。
Aさんの勤怠記録が「改ざんされた」と報道されているのは、社内資料によると本年7月のとある週末、土曜と日曜のそれぞれ午前中に勤務した分であった(ちなみに、Aさんについて打刻修正が行われたのはこの1回のみだ)。
Aさんは当該週、月曜から金曜までフル出勤した上で、土曜午前中の半日出勤をあらかじめAMに申請した上で行った。そしてAさんは、翌日日曜の午前中も出勤し、出勤翌日になってその日曜分の休日出勤申請を行ったのである。
しかし、日曜の休日出勤を承認してしまうとAさんは「7連勤」となってしまい、内規に抵触する。そこでAMの上司である支社長は「Aさんの連勤は認められない。振替休日にして平日に休むように」という指示を出した。結局AMは、Aさんの日曜出勤については事後申請ということもあり承認せず、Aさんに対して「支社長から7連勤は認められないと言われた。休日出勤の事後申請も認めない」と伝えたところ、Aさんは「今週(週末出勤した翌週)の金曜午後を半休にする」と返答し、AMはそれを認めた。
ただ、Aさん側で勤怠システムの振休登録ができなかったため、AM側で「前週土曜午前中に出勤した実績を削除」し、半休と相殺して「今週金曜午後に出勤した形にする修正」を行った。すなわち、連勤となってしまう「前週土曜半日勤務分」を「今週金曜半休分」に移し替えたわけだ(この際AMはカン違いしており、本来は未承認である「日曜勤務分」を付け替えるべきであったが、承認済であったはずの「土曜勤務分」を移し替えてしまっている。ただし、全体での総労働時間は不変である)。
一連の経緯を振り返る限り、これは単に「本人了承のもとで行われた勤務実績の付け替え」でしかなく、総労働時間も変化していない。ましてや、過重労働の隠蔽などでは決してない。実際、AさんからAM宛に送られた勤怠記録の修正依頼も記録として残っている。これを「改ざん」と報じるのはいかにも大げさであり、まるで「長時間労働をもみ消している」とでも言わんばかりの印象操作ではないだろうか。
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