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「リストラという考えは1ミリもない」 電通「社員の個人事業主化」の真意、発起人を直撃230人が応募(4/4 ページ)

» 2020年12月16日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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個人事業には収入以外のリスクも伴う

photo LSPの募集は7〜8月に実施。230人が応募した(写真は、電通の本社ビル)

 LSPの募集は、7〜8月にかけて実施された。その際、社労士、ファイナンシャルプランナーなどを招き、独立後に必要とされる保険や年金といった社会保障に関することを学んだり、各人の事情に合わせて将来のお金に関するシミュレーションを実施するなどしたそうだ。

 今回の応募者は、当然理解していると思うが、肩書から「電通」という看板が外れたとたんに、世間の見る目が一変するだろう。特に、金融機関などからの信用は失墜することは覚悟しておいた方がよい。筆者の個人的な話で恐縮だが、20年近く在籍した音楽制作会社から独立し、個人事業から法人成りした際の経験を書かせていただく。

 法人成りして2年弱のタイミングで住宅ローンを銀行に申し込んだのだが、多くの銀行で、けんもほろろな対応を受け、ほとんど相手にしてくれなかった。確定申告の過去3年の収入は右肩上がりで急上昇していたので自信はあったのだが、ある都市銀行の担当者は、それを見て「収入が安定していませんね」と言い放った。最初から相手にする気は、ゼロだったのだろう。

 今回、応募を検討した社員の中には、「いわゆる“嫁ブロック”で断念した人もいる」(野澤氏)というが、家族の立場からすると「電通」という大樹の庇護(ひご)から離れることへの不安が先行するのは当然であろう。

 中には、「家族が、新境地を切り開くことを応援してくれたので応募した」というメンバーもいるというが、230人とその家族の期待と不安を内包しながら、電通が示した「新しい働き方」が今後、他社に波及するのか、稀有(けう)な取り組みで終わるのか、企業人の在り方に一石を投じ、日本社会の多様性を問う試金石となりそうだ。

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