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「液化水素運搬船」先駆者の川崎重工 河野一郎常務に聞く「韓国や中国がまねできない技術」生き残りをかけた技術競争(2/4 ページ)

» 2021年05月07日 08時53分 公開
[中西享ITmedia]

20年代半ばに大型船建造

 川崎重工業は10年ころ、次の事業の柱となるプロジェクトの検討を始めた。脱炭素の動きが強まる中で浮上したのが水素エネルギーだったという。15年には日本とオーストラリア政府が、褐炭から製造した液化水素を輸送するプロジェクトを採択し、同社が液化水素運搬船、液化水素の積荷・揚荷基地の建造、建設を担当している。

 河野一郎常務は「この4月にプラント部門と船舶部門を統合した『エネルギーソリューション&マリンカンパニー』を作り、本社では水素のサプライチェーンを確立するための『水素戦略本部』を立ち上げました。日本政府の基本戦略に沿って水素関連の技術開発を促進していきます。これまでLNG船で培ってきた断熱技術などを生かして、30年以降に必要となってくる大型の液化水素運搬船の実用化を急ぎたい」と意気込む。

 同社では現在、先述の褐炭水素プロジェクトを進めている。現在、1250立方メートルの液化水素を運べるパイロット船「すいそ ふろんてぃあ」を建造し、完工間近だ。コロナ禍が落ち着けば日本とオーストラリア間で液化水素の運搬について安全性などの実証試験をする。

 この実証結果を受けて20年代半ばまでに、16万立方メートルの液化水素を一度に運べる球形タンクを有する大型運搬船を竣工させる計画であり、これは世界に先駆けた取り組みだ。

 当初の計画では30年ごろまでに、大型運搬船2隻を建造・運用して年間30万トンの液化水素を海外から調達。その後50年ころには80隻ほどまでの拡大を見込んでいた。だが、20年12月に政府が発表したカーボンニュートラル計画では、水素導入量は10倍にあたる300万トンに大幅上方修正されたため、「それ以上の需要が見込めるのではないかと考えています」(河野常務)と期待している。

photo 海上試運転を行う液化水素を運ぶパイロット船「すいそ ふろんてぃあ」 

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