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「液化水素運搬船」先駆者の川崎重工 河野一郎常務に聞く「韓国や中国がまねできない技術」生き残りをかけた技術競争(2/2 ページ)

» 2021年05月07日 08時53分 公開
[中西享ITmedia]
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魔法瓶のような二重構造タンク

 一方で、大型液化水素運搬船を実用化するためには、クリアしなければならない課題がある。それは、水素の液化温度がマイナス253度という「極低温」であることで、この温度を保って大量に運べるタンク、配管などを作らなければならないのだ。

 パイロット船で川重が考案したのが、魔法瓶のような真空の二重構造のタンクで、こうすることにより断熱性能を大幅に高めることができた。沸騰したお湯をこの二重構造のタンクに1カ月間入れておいても温度は1度も下がらないほどの高い断熱性能があるという。

 この技術を生かして液化水素をオーストラリアから日本まで大量に運べるめどがつきつつある。河野常務は話す。

 「開発では、これまで手掛けてきたLNG船でのマイナス163度を保つ低温ガス技術が生かされています。LNGよりさらに100度低いと断熱性能が10倍以上必要になります。この高い技術は他国がまねをしようとしても簡単にはキャッチアップできないと思います。韓国やノルウェーが水素運搬船を建造する計画はあるといわれているものの、具体的に計画が進んでいるという話は聞いていません。しかし、これまでもLNG船などで韓国などに追い付かれてきた歴史があるので、新しいカンパニーを作って大型船の開発を急ぎたいと考えています」

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 日本の造船業界では、これまでに大型タンカー、コンテナ船、LNG船などで中国、韓国の造船会社に追い付かれてきた苦い歴史がある。しかし、液化水素運搬船については、日本を含め世界のどこの造船会社もまだ実用化できていない。そんな最新技術を駆使した船だけに、早期の実用化への期待が高まっている。

 実用化されれば世界で初めての大型液化水素運搬船となるため、同社で建造した船が世界標準になる可能性が高い。船の安全・環境規制などの国際規格を決めている国際海事機関(IMO)に日本から提案して採用されれば、将来的には日本が液化水素運搬船の建造を有利に進めることができる。

photo 球形タンクを搭載しているパイロット船「すいそ ふろんてぃあ」

環境技術で生き残りかける

 この数年、日本の造船業界は中国や韓国に受注を奪われ、造船会社が整理統合を迫られるなど苦しい状態が続いている。10年ほど前までは日本の造船会社が得意としていたLNG船も、大半が中国と韓国で建造されていて、日本の出番が少なくなっている。このため、日本の造船会社は生き残りをかけている。

 船の排出ガスの環境規制が強まる中で、これまでの重油を燃料とした船に代わって、日本独自の技術を生かせるLNG、LPG(液化石油ガス)を燃料にしたガス燃料で走る環境対策船を建造して 、存在感を発揮しようとしている。20年度の同社全体の売り上げ見通しは約1兆5000億円。このうち船舶海洋ディビジョンは約800億円程度で比率は5〜6%しかない。河野常務は話す。

 「当社では現在、中国にある合弁会社で多くの船舶を建造し、香川県にある坂出工場は環境技術のブラッシュアップをするマザー工場と位置付けています。今後、船舶部門では売上規模を追い求めるのではなく、他社がまねできない技術力で勝負していきたいと考えています」

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