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“やってる感”だけ先走る――なぜ日本企業は「名ばかり改革」を繰り返すのかAD名称変更、働き方改革、同一労働同一賃金、ジョブ型雇用……(3/4 ページ)

» 2022年01月27日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 ジョブ型雇用とは、会社が用意した職務ごとに雇用契約を交わす職務主義の仕組みです。欧米ではオーソドックスなスタイルだといわれます。日本で浸透しているメンバーシップ型のように強い人事権の下、会社が社員の職務遂行能力を自在に活用できる雇用契約を交わす職能主義とは根本的に異なります。

 現在、ジョブ型という名目で導入されている制度の多くは、内実を見ると限定正社員の変形版です。職務記述書を作成するなどこれまでとは異なる制度のように見えますが、かつて限定正社員が抱えていた課題が解決されたわけではありません。もし本当にジョブ型を導入するとなれば、人事権が縛られて、限定地域内での異動もままならなくなります。今の日本の会社組織のままで運営するのはかなり困難です。中には強い覚悟でジョブ型への移行に取り組む会社も見受けられますが、生半可な覚悟でブームに乗っただけの“便乗ジョブ型”では、うまくいくはずがありません。

職務記述書を作成しただけでは「ジョブ型」とはいえない(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 ある程度限定された範囲内であったとしても、会社が人事権を用いて強制的に職務や勤務地の変更ができるとしたら、それはメンバーシップ型です。グローバル競争を勝ち抜く上で日本の強みを生かしながら人事制度を工夫することは必要なことですが、実態がメンバーシップ型なのにもかかわらずジョブ型雇用と呼んでも名称と実態が一致しません。欧米化した雰囲気が漂うだけの名ばかり改革となってしまいます。

 限定正社員が抱える課題が解決されていない以上、ジョブ型と呼ばれている制度もやがて運用に無理が出て風化していく可能性があります。ジョブ型と名称をごまかして課題を隠すくらいなら、むしろ、限定正社員の課題に立ち返って議論しながら発展させていく方が、法制度の整備なども進めやすいのではないでしょうか。

「あれ、これって前にもあった制度では?」

 働き方改革、同一労働同一賃金、ジョブ型雇用など、新しい名称の施策が推進される背景はさまざまです。また、政府主導の場合もあれば会社主導の場合もあります。それらはいずれも何らかの課題に対する解決策として導入されており、社会にとっても会社にとっても重要な施策である点で共通しています。つまり、必ず実効性のある取り組みにしなければならず、名ばかり改革に陥らせてはならないものなのです。

 ところが、さまざまな新名称の施策が推進されては、次から次に形骸化し名ばかり改革に陥ってしまいます。気が付くと、「あれ? 新しい名前がついているけど、以前も似たようなことやったよな」と何年か周期でリフレインしていることもあります。そうなる原因は、一つには政府の対応の甘さがあります。同一労働同一賃金のように、名称と実態が一致しない法制度を施行すれば、必然的に名ばかり改革として形骸化することになります。

 そしてもう一つ肝心なのが、会社の対応です。

 新たな施策を導入しても、名称を変えただけでこれまでの組織構造を維持したままでは実効性は期待できません。なぜ会社は組織構造にメスを入れず、繰り返し名ばかり改革を生み出してしまうのでしょうか。そこには、あらゆる組織に潜むメカニズムのワナがあります。

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