日本銀行の金融政策が、奇(く)しくも世界中の注目を集めることになった。「家計の値上げ許容度が高まってきている」という発言に批判が集まり、謝罪と撤回を余儀なくされた黒田東彦総裁。6月17日に日銀が表明した「金融緩和維持」の方針は、依然として「デフレマインドの払拭」というアベノミクス以来、一貫した姿勢を崩さないものだった。
一方、値上げラッシュが続く中で賃金が上がらなければ、その影響を大きく受けるのは家計だ。『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)を上梓した経済アナリストで金融教育ベンチャーのマネネCEOの森永康平氏は、本記事の前編【森永康平に聞く「賃金が上がらない国・日本」の深層】で、いま政府に求められているのは、岸田文雄首相が総裁選の時に掲げていた所得倍増計画を実現することだと主張した。
参院選の各党の政策が出そろう中、政府も「骨太の方針」をはじめとする経済政策の方向性の議論を重ねている。森永氏は、緊縮財政か積極財政かを議論する前に、そもそも税金の役割がきちんと理解されていないことが問題だと指摘する。
後編では、値上げラッシュがなぜ本格化したのかといった疑問や、税金の本来の役割、少子化や地方の衰退といったテーマについて聞いた。
――今年に入って、値上げラッシュが続いている動きを、どう見ていますか。
原材料価格が上がったら価格転嫁されて売価が上がるのは、非常に当たり前の話なんですよ。ただ、日本人は長きにわたってデフレ経済を経験してしまっています。だから、ちょっと値上げされるだけでも、ものを買わなくなることがデータでも証明されています。ですから、買い控えを嫌気して値上げを我慢し続けていた企業は少なくないと思います。
――その結果として、価格は変えずに量を減らす「ステルス値上げ」によって対策をする企業も出てきました。
その「ステルス値上げ」ですら、日本国民は見抜いてしまうことが分かっています。しかし、この2カ月間は、メディアが値上げを報道する際に、コロナによるサプライチェーンの寸断や、ウクライナ侵攻による資源価格の高騰など、値上げの理由をセットで報道しています。
それによって生活者も「まぁ仕方ないよね」と思い始めているのに乗じて、値上げラッシュが起きているのでしょう。赤信号、みんなで渡れば怖くない、という感覚と一緒です。1社値上げすれば他社も追随するのが、昨今の値上げラッシュの理由です。
――物価が上昇した結果として賃金も上がる、というのが日銀の金融緩和政策の根拠です。最近の物価上昇が賃金に反映されるまでには時間がかかりそうですか。
世界的な原材料価格の高騰が背景にあって、企業は仕方なく値上げをしています。ですから、まだ賃金にまわす余裕はないと見ています。値上げした分、売り上げは増えるかもしれませんが、利益率が上がらないことには人件費を引き上げようと思う企業は現れないしょう。
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